何を変えるのかを、一緒に見つける ― 動機づけ面接における「フォーカスする」

はじめに:問題が多すぎて、何から話せばよいか分からない
養生支援の場では、目の前の人にいくつもの課題が見えることがあります。
睡眠が乱れている。
食事が不規則になっている。
運動もあまりできていない。
仕事の疲れが強い。
家族のことも気になっている。
検査値にも少し注意が必要である。
支援する側から見ると、どれも大切です。
どれも放っておけないように感じます。
そのため、つい全部を伝えたくなります。
「睡眠を整えましょう」
「食事も見直しましょう」
「運動も少し始めましょう」
「ストレスもためないようにしましょう」
一つひとつは、間違った助言ではありません。
どれも健康にとって大切なことです。
けれども、相手の側から見ると、どうでしょうか。
「結局、全部だめなのか」
「何から始めればよいのか分からない」
「分かっているけれど、今はそんな余裕がない」
そのように感じてしまうことがあります。
支援者に見えている問題と、本人がいま生きている問題は、同じとは限りません。
ここに、養生支援の難しさがあります。
何を変えるのか。
どこから話すのか。
何を、いま扱うべきなのか。
それは、支援者だけが決めるものではありません。
本人の生活全体を見渡しながら、一緒に見つけていく必要があります。
支援者には「変えるべきこと」が見えている
養生支援では、支援する側だからこそ見えてくるものがあります。
血圧が高い。
血糖値が上がっている。
体重が増えている。
睡眠時間が短い。
運動量が少ない。
疲労がたまっている。
薬を飲み忘れている。
こうした変化やリスクを見逃さないことは、専門家として大切です。
本人がまだ気づいていない身体の変化に気づく。
今の生活が将来の不調につながる可能性を見る。
悪くなる前に、生活の整え方を提案する。
それは、養生支援の重要な役割です。
ですから、支援者が問題を見ること自体が悪いわけではありません。
むしろ、専門的な見立てがあるからこそ、支援は成り立ちます。
ただし、その見立てをそのまま「本人の問題」として決めてしまうと、対話がずれることがあります。
専門家には、専門家として見えている問題があります。
一方で、本人には、本人として生きている現実があります。
この二つが重なることもあります。
けれども、ずれていることもあります。
そのずれを丁寧に扱わないまま助言を進めると、支援者は正しいことを言っているのに、本人には届きにくいということが起こります。
本人にとっての問題は、別の場所にあることがある
たとえば、支援者は「運動不足」を問題として見ているとします。
たしかに、運動は大切です。
体力を保つためにも、血糖や血圧を整えるためにも、気分を安定させるためにも、身体を動かすことには意味があります。
しかし、その人にとっての問題は、運動不足そのものではないかもしれません。
仕事から帰ると疲れ切っている。
家に帰っても家事がある。
休日は寝ているだけで精一杯になる。
以前も歩こうとしたけれど続かなかった。
また続かなかったら、自分が嫌になりそうだ。
この人にとっては、「運動しないこと」よりも、「運動する余力がない生活」の方が大きな問題かもしれません。
あるいは、支援者は「食事」を変えるべきだと思っているかもしれません。
けれどもその人にとっては、食べ方そのものよりも、夜遅くまで働くこと、家族の世話で自分の食事が後回しになること、ストレスが強いと甘いものに頼ってしまうことが問題かもしれません。
支援者は「睡眠」を整えたい。
しかしその人にとっては、夜になっても考えごとが止まらないこと、休むことに罪悪感があること、家族の心配で気持ちが休まらないことが問題かもしれません。
表に出ている問題と、その人が生活の中で抱えている問題は、同じとは限りません。
「運動不足」
「食事の乱れ」
「睡眠不足」
という言葉で整理すると、問題は分かりやすくなります。
しかし、その分かりやすさの中で、その人の生活の具体性が見えにくくなることがあります。
同じ「運動できない」という状態でも、背景は人によって違います。
体力が落ちているのか。
時間がないのか。
疲れすぎているのか。
家族の役割が重いのか。
運動する意味がまだ見えていないのか。
過去の失敗が重く残っているのか。
どこに焦点を当てるかによって、支援の方向は大きく変わります。
だからこそ、何を問題として扱うかは、慎重に見つけていく必要があります。
焦点を支援者が一方的に決めると、対話は押しつけに戻る
支援の場では、焦点を決めることが必要です。
話題が広がりすぎると、対話は散らばります。
何も決まらず、何も始まらないまま終わってしまうこともあります。
ですから、どこかで「今日は何について話すのか」を定める必要があります。
しかし、その焦点を支援者が一方的に決めてしまうと、対話は押しつけに戻ってしまうことがあります。
たとえば、支援者が、
「今日は運動について話しましょう」
と決めたとします。
それが必要な場面もあります。
検査値や体調から見て、運動について話すことが重要な場合もあります。
けれども本人の内側では、
「本当は疲れのことを話したかった」
「運動以前に、毎日を回すだけで精一杯だ」
「体を動かす余裕がない理由を、もう少し分かってほしかった」
「今は、運動よりも薬のことを相談したかった」
ということが起きているかもしれません。
そのずれがあるまま話が進むと、支援者は丁寧に説明しているつもりでも、本人には「また指導された」と感じられることがあります。
何を問題として扱うかは、その後の対話の流れを決めます。
運動を問題として扱えば、話は運動の量や方法へ進みます。
食事を問題として扱えば、話は食べ方や栄養へ進みます。
疲れを問題として扱えば、話は休み方や働き方へ広がるかもしれません。
家族の負担を問題として扱えば、話は役割や支え合いへ向かうかもしれません。
つまり、焦点を決めることは、単なる話題選びではありません。
その人の生活を、どの入口から見つめるかを決めることです。
だからこそ、焦点は一方的に決めるのではなく、本人とともに見つけていく必要があります。
動機づけ面接では、この段階を「フォーカスする」と呼ぶ
動機づけ面接では、対話の中で何を扱うのか、どの方向へ進むのかを一緒に定めていく過程を「フォーカスする」と呼びます。
フォーカスするというと、話題を絞ることのように聞こえるかもしれません。
もちろん、対話には焦点が必要です。
話題が広がり続ければ、変化に向かう道筋は見えにくくなります。
しかし、ここでいうフォーカスは、単に支援者が正しいテーマを選んで、そこへ誘導することではありません。
また、本人の話したいことだけに流されることでもありません。
本人の関心。
支援者の専門的見立て。
今の生活の現実。
これから大切にしたい方向。
それらをすり合わせながら、いまこの対話で扱う焦点を一緒に見つけていくことです。
ここで大切なのは、焦点を絞る前に、全体を少し見渡すことです。
その人の身体の状態。
生活のリズム。
仕事や家族の負担。
疲れや不安。
これまでの失敗や工夫。
何を大切にして生きているのか。
そうした全体を見ずに、いきなり一つの行動だけに絞ると、焦点は狭くなりすぎます。
焦点とは、問題を小さく切り取ることではありません。
その人の生活全体を見渡しながら、どこからなら変化が生まれ始めるのかを見つける入口です。
フォーカスするとは、その入口を本人と一緒に探していくことなのです。
何を扱うかを一緒に決めると、本人の主体性が残る
何を扱うかを一緒に決めると、対話の質が変わります。
支援者が、
「今日は何から話すのがよさそうでしょうか」
と尋ねる。
あるいは、
「睡眠、食事、運動、仕事の疲れなど、いくつか気になることがあります。今日はどこから考えてみましょうか」
と声をかける。
すると、本人は自分の状態を少し見渡すことになります。
「食事も気になりますが、まずは疲れかもしれません」
「運動より、睡眠が先だと思います」
「実は、薬のことを相談したいです」
「仕事が変わらないと、生活も変えにくい気がします」
このように、本人が自分の言葉で焦点を選び始めます。
それは、単に話題を選んでいるだけではありません。
自分の生活のどこが、いま一番つらいのか。
どこなら少し考えられそうなのか。
何なら今の自分にも扱えそうなのか。
何を大切にしたいのか。
そうしたことを、本人自身が見つめ始めているのです。
支援者が焦点を決めてしまうと、本人はそのテーマに答える立場になります。
しかし、焦点を一緒に見つけると、本人は自分の生活を見渡す立場に戻ります。
ここに、主体性が残ります。
養生支援では、本人の主体性を尊重することが大切だと言われます。
しかし主体性は、「あなたが決めてください」と丸投げすれば育つものではありません。
支援者の見立ても示す。
本人の実感も聴く。
いくつかの可能性を並べる。
そのうえで、いま何を扱うのがよさそうかを一緒に考える。
その過程の中で、本人は少しずつ、自分の生活を自分のものとして見直し始めます。
関係を焦点へつなぐ言葉――アジェンダ・マッピング
では、実際の対話では、どのように焦点を一緒に見つければよいのでしょうか。
ここでは一つ、アジェンダ・マッピングという方法を取り上げます。
アジェンダ・マッピングとは、話し合えるテーマをいくつか並べ、その中から何を扱うかを本人と一緒に選ぶ方法です。
たとえば、支援者はこう言うことができます。
今日話せそうなことを、少し並べてみてもよいでしょうか。
睡眠、食事、運動、仕事の疲れ、薬のこと。
いくつか気になることがありますが、今日はどこから話してみるのがよさそうでしょうか。
このように、話題を見える形に並べます。
大切なのは、支援者が選ぶのではなく、本人と一緒に選ぶことです。
場合によっては、支援者の見立てを少し添えてもよいでしょう。
私から見ると、血圧のことも少し気になります。
一方で、先ほどからお話を聞いていると、仕事の疲れがかなり大きそうにも感じます。
今日は、どちらから考えるのがよさそうでしょうか。
このように言えば、支援者の専門的な見立てを隠さずに示すことができます。
しかし、それを一方的に押しつけるのではなく、本人の実感と並べて考えることができます。
アジェンダ・マッピングは、ただ話題を整理する技法ではありません。
支援者が道順を決めるためのものではなく、支援者と本人が同じ地図を広げて見るための方法です。
その地図の中には、専門家から見えるリスクもあります。
本人が感じているつらさもあります。
今なら少し話せそうなこともあれば、まだ触れにくいこともあります。
支援者だけが地図を持っているのではなく、本人と同じ地図を見ながら、
「今はどこから見ていきましょうか」
と相談する。
アジェンダ・マッピングは、そのための言葉の形なのです。
焦点は、一度決めたら終わりではない
フォーカスするというと、一度テーマを決めたら、そのテーマに沿って最後まで進むことのように思われるかもしれません。
もちろん、焦点があるから対話は深まります。
毎回話題が散らばってしまうと、変化につながりにくくなります。
しかし、人の生活は単純ではありません。
最初は「運動」の話をしていた。
けれども、話していくうちに、実は疲れの問題が見えてくる。
疲れの話をしていると、睡眠だけでなく、仕事の責任や家族の心配が関わっていることが分かる。
さらに深く聞いていくと、本人が「休むことに罪悪感を持っている」ことが見えてくることもあります。
このように、焦点は対話の中で深まったり、少し組み替わったりします。
最初から正しい問題を当てることが目的ではありません。
対話の中で、問題の見え方を本人とともに更新していくことが大切です。
支援者が最初に見立てた問題は、入口として大切です。
しかし、その入口から入ってみると、別の構造が見えてくることがあります。
運動不足の背景に、疲労がある。
疲労の背景に、働き方や家族の役割がある。
その奥に、休むことへのためらいがある。
このように、問題は一つの項目として独立しているのではなく、生活全体の中でつながっています。
だからこそ、焦点は固定された一点ではありません。
対話の中で少しずつ見えてくる、変化の入口なのです。
焦点が合うと、変化の入口が見えてくる
焦点が本人の生活に合ってくると、対話の中に少し変化が生まれます。
最初は、支援者が「運動不足」を気にしていた。
本人も、運動した方がよいことは分かっていた。
けれども、一緒に話していくうちに、本人がこう言うかもしれません。
「運動というより、まず疲れを何とかしたいです」
「疲れが少し軽くなれば、歩く気持ちも出るかもしれません」
「夜の過ごし方を変えるところからなら、できそうです」
ここで、変化の入口が見えてきます。
支援者が最初に決めた問題ではなく、本人の生活の中で意味を持つ焦点が見つかったとき、そこから本人の言葉が出てきます。
「少しならできそう」
「ここからなら考えられる」
「本当はこうしたい」
「このままでは少しまずいと思う」
こうした言葉は、外から押し込まれたものではありません。
本人が自分の生活を見つめ直す中から生まれてきたものです。
フォーカスすることは、単に話題を絞ることではありません。
本人の中にある変化の芽が、どこから言葉になりやすいのかを一緒に探すことでもあります。
何を扱うのかが少し見えてくると、その人が何のために変わりたいのかという問いが、少しずつ立ち上がってきます。
おわりに:問題を決める前に、問題の見え方を一緒に整える
養生支援では、支援者には見えている問題があります。
それを見ないふりをする必要はありません。
専門家として、必要な見立てや提案を持つことは大切です。
しかし、その見立てだけで対話の焦点を決めてしまうと、本人の生活の実感とずれることがあります。
支援者が見ている問題。
本人が感じている困りごと。
生活の中で変えられそうなところ。
今はまだ触れられないところ。
それでも大切にしたい方向。
それらを一緒に見渡しながら、いま扱う焦点を見つけていく。
フォーカスするとは、問題を狭めることではありません。
本人の生活全体の中で、変化が生まれ始める入口を一緒に見つけることです。
支援者が問題を決めることは、速く見えるかもしれません。
けれども、その人の生活の中で意味を持たない焦点は、変化につながりにくいものです。
何を変えるのかを、一緒に見つける。
その過程の中で、本人は少しずつ、自分の生活を自分の言葉で見直し始めるのだと思います。
補足:この記事で触れた動機づけ面接の言葉
フォーカスする
動機づけ面接の4つのプロセスの一つです。
対話の中で、いま何を扱うのか、どの方向へ進むのかを、本人と支援者が一緒に定めていく段階です。
アジェンダ・マッピング
話し合えるテーマをいくつか並べ、その中から何を扱うかを本人と一緒に選ぶ方法です。
支援者の見立てと本人の関心を、同じ場に置くために役立ちます。
協働
支援者が一方的に導くのではなく、本人とともに考える姿勢です。
支援者の見立てと本人の実感を同じ場に置き、同じ側に立って問題を見つめることを大切にします。

