生命は、どのように自らを保つのか ― 構造と働きから考える身体の健康生成

はじめに:変わり続ける生命の中で、何が保たれているのか
前回の記事では、生命が変わりながら続いていく姿を考えました。
生命は、変化しないから続いているのではありません。
外界や自らの活動によって生じる変化を受け取り、それに応じて自らを調整・修復・再編することで、次の持続をつくっています。
この一連の過程を、「生成」と呼びました。
生成とは、生命が自らをつくり直しながら、生き続けることである。
前回の記事ではさらに、生命の生成の中で、身体の健康も生成することを考えました。
その身体の健康生成が、生存・生活・人生からなるLife全体がwell-beingへ開かれていく基盤となります。
では、身体の健康は、生命のどのような仕組みによって生成しているのでしょうか。
私たちの身体は、外界から物質を取り入れ、不要になったものを排出しています。
身体を構成する多くの物質も、それぞれ異なる速さで、合成され、分解され、入れ替わっています。
それにもかかわらず、一つの生命としてのまとまりは失われません。
絶えず物質が動き、状態が変化している生命の中で、いったい何が保たれているのでしょうか。
今回は、比較的保たれている「構造」と、絶えず動いている「働き」の関係から、生命の生成と身体の健康生成を支える仕組みを考えていきます。
保たれているのは、同じ物質ではない
私たちは、身体を一つの物のように捉えがちです。
たしかに、身体には形があります。
皮膚によって外界と隔てられ、臓器や組織が一定の位置に配置され、一つの身体としてまとまっています。
しかし、その身体は、完成した物として置かれているわけではありません。
食物に含まれる物質は消化・吸収され、身体を動かすエネルギーや、身体を構成する材料として使われます。
不要になったものは分解され、排出されます。
細胞を構成するタンパク質や脂質なども、それぞれの速さでつくられ、分解され、更新されています。
したがって、生命が続くということは、同じ物質がそのまま残り続けることではありません。
では、何が続いているのでしょうか。
一つの手がかりは、物質と、その物質によってつくられている構造を分けて考えることです。
本記事では、細胞、組織、臓器、身体など、物質が一定の形と配置をとって成り立っているものを「構造」と呼びます。
細胞が集まって組織をつくり、複数の組織が臓器をつくり、それぞれの臓器が関わりながら、一つの身体を形づくっています。
構造を構成する物質が入れ替わっても、新たな物質がその構造へ組み込まれることで、細胞や組織、臓器は保たれます。
ただし、構造もまったく同じ形のまま残るわけではありません。
構造そのものも、身体の状態や環境に応じて修復され、ときに組み替えられます。
それでも、一つの生命としてのつながりは失われません。
物質が入れ替わり、構造が変化しても、その部分どうしの配置や関係に一定の連続性が保たれているからです。
第一記事で見たのは、このように変化の中でも、生命としてのまとまりやつながりが保たれているということでした。
構造と働きは、互いを支えている
生命の構造には、それぞれの形に応じた働きがあります。
細胞膜は、細胞の内と外を分けながら、必要な物質を取り入れ、不要になったものを外へ出すことを可能にします。
肺には、酸素と二酸化炭素を交換するための構造があります。
筋肉には、収縮して力を生み出すための構造があります。
このように、構造は生命の働きを可能にします。
ここでいう「働き」とは、物質を取り入れる、エネルギーを生み出す、身体を動かす、内部の状態を調節する、損なわれた部分を修復するといった、生命の中で絶えず進んでいる過程です。
構造が、物質の一定の形と配置を表すとすれば、働きは、その構造に支えられながら時間の中で進んでいく過程だといえます。
しかし、構造は、働きとは別に保存されているのではありません。
細胞膜を構成する物質は、細胞内の代謝によって更新されています。
骨では、古い骨組織が吸収され、新しい骨組織がつくられる過程が続いています。
筋肉も、その使われ方、負荷、栄養、休養などによって変化します。
生命の構造は、物質を取り入れ、必要なものを合成し、損傷を修復する働きによって、絶えずつくり直されています。
ここには、一つの循環があります。
構造があるから、生命は働くことができる。
生命が働き続けるから、構造を保つことができる。
構造が先にあり、その後から働きが加わるのではありません。
働きだけが先にあり、そこから構造が一方的につくられるのでもありません。
構造が働きを可能にし、働きが構造を維持し、つくり直している。
生命の構造と働きは、この循環の中で互いを支えています。
生命は、保ち方そのものを変える
第一記事では、生命にとっての安定は、変化せずに同じ状態を保つことではないと述べました。
暑ければ発汗し、運動すれば呼吸や循環を高めるように、生命は働き方を変えることで、そのときに必要な状態を保っています。
本記事の視点から見れば、この動的な安定を支えているのも、構造と働きの関係です。
一時的な変化には、働き方を変えることで応答します。
しかし、その調節だけでは十分に対応できない変化が続けば、生命は構造や働き方そのものをつくり直すことがあります。
生命は、現在の状態を調節するだけでなく、必要に応じて、次の状態を支える構造をつくり直しているのです。
では、構造がつくり直されるとき、生命の中では何が起きているのでしょうか。
第一記事で取り上げた、運動する筋肉へ戻ってみましょう。
構造と働きの循環が、次の状態をつくる
筋肉や神経系の構造があるから、身体を動かすことができます。
運動によって普段より強い負荷が加わると、筋肉の代謝状態が変化し、筋タンパク質の合成や分解に関わる働きも変わります。
休養と栄養が確保されれば、身体はその変化に応答し、筋組織を修復・再構築します。
運動を繰り返す中では、神経系にも変化が起こり、筋肉をより効率よく働かせられるようになることがあります。
こうして、働くことによって構造が変わり、変化した構造が次の働き方を可能にします。
構造が働きを支える。
働くことで変化が生じる。
その変化に応じて、構造がつくり直される。
つくり直された構造が、次の働きを支える。
筋肉が適応する過程で起きているのは、この循環です。
前回の記事では、この過程を、負荷から揺らぎ、回復・再構築、適応、次の持続へと進む時間的な流れとして見ました。
今回は、その流れを可能にしている仕組みが見えてきました。
生命は、完成した構造をそのまま保存しているのではありません。
構造と働きが互いを支え、互いを変えながら、次の状態を生み出しています。
構造と働きの循環が、生成を支えている
ここまで考えてくると、第一記事で定義した生成を、さらに深く理解できるようになります。
生命は、変化を受けた後で、外からつくり直されるのではありません。
生命を構成する諸部分が互いに関わりながら、その変化に応答します。
必要な物質とエネルギーを取り入れ、内部の状態を調節し、損なわれた部分を修復します。
それまでの状態では変化に対応できなければ、構造や働き方を組み替えることもあります。
この過程を支えているのが、構造と働きの循環です。
構造は、生命の働きを可能にします。
働きは、構成する物質を入れ替えながら、その構造を維持・修復・再編します。
そして、つくり直された構造が、次の働きを可能にします。
この循環の中で、構造の部分どうしの関係も、そのまま固定されるのではなく、一定の連続性を保ちながら更新されています。
構造と働きが互いを支え、物質を入れ替えながら生命の構造とそのつながりを生み直していく。
この循環が、生命が変化に応答し、次の持続へ生をつなぐ生成を支えているのです。
ここで構造と働きを分けて考えてきましたが、実際の生命において、両者が別々に存在しているわけではありません。
構造が働きを可能にし、働きがその構造を保ち、つくり直す。
生命は、この循環を続けることで、構成する物質を入れ替えながらも、一つの生命としてのまとまりをつないでいるのです。
構造と働きの循環が、身体の健康生成を支える
第一記事では、健康もまた、変化のない完成した状態ではなく、生命が変化に応答しながら、そのつど生成するものだと考えました。
では、その健康は、どのような仕組みによって生成しているのでしょうか。
ここまで見てきた構造と働きの関係から、その答えが見えてきます。
構造があるから、生命は働くことができます。
生命が働くことで、構造を構成する物質が入れ替わり、損なわれた部分が修復され、必要に応じて構造そのものが組み替えられます。
そして、つくり直された構造が、次の働きを可能にします。
変化を受けた身体が、この循環によってまとまりと生きる力を保ち、必要に応じて自らをつくり直しながら、次の営みへ生をつなぐことができるとき、健康もまた生成しています。
健康は、特定の構造が変化せずに残っていることではありません。
また、一つひとつの働きが、いつも同じ水準に保たれていることでもありません。
変化する条件の中で、構造と働きが互いを支え、必要に応じて関係を組み替えながら、次の状態を生み出せることが重要です。
ただし、この循環が、いつも十分に働くとは限りません。
負荷が強すぎたり、物質やエネルギーが不足したりすれば、修復や再編が変化に追いつかなくなることがあります。
構造の損傷が働きを妨げ、働きの低下によって構造を修復する力がさらに弱まることもあります。
生命活動が続いていることと、健康が生成していることは、同じではありません。
身体が変化に応答し、構造と働きの関係を調整・修復・再編しながら、まとまりと生きる力を保ち、次の営みへ生をつなげられることが重要です。
身体の健康は、構造が働きを支え、働きが構造をつくり直す循環の中で、生命がまとまりと生きる力を保ちながら変化に応答し、次の営みへ生をつなぐことによって生成します。
そして、この循環は、生命の内部だけで完結しているのではありません。
外界から物質とエネルギーを取り入れ、環境からさまざまな変化を受けながら営まれています。
健康は、外から完成した状態として与えられるのではなく、外界との関係の中で生命が自らをつくり直す過程を通して、そのつど生成しているのです。
ただし、ここで明らかになったのは、身体における健康生成の仕組みです。
構造と働きの循環が、そのまま人間のwell-beingを生み出すわけではありません。
それでも、身体が変化に応答し、まとまりと生きる力を保ちながら次の営みへ生をつなぐことは、人間が生活を営み、人生を生きていくための基盤となります。
身体における健康生成は、Life全体がwell-beingへ開かれていく過程を、身体の側から支えているのです。
おわりに:構造と働きの循環が、生命と健康を支える
今回は、第一記事で見えてきた身体の健康生成が、どのような仕組みによって支えられているのかという問いから出発しました。
その手がかりとして、変わり続ける生命の中で、何が保たれているのかを考えてきました。
生命を構成する物質は、外界との間を行き来し、身体の中でも合成・分解・更新されています。
それでも生命が一つのまとまりとして続くのは、同じ物質が残り続けているからではありません。
物質が細胞、組織、臓器という構造へ組み込まれ、その構造が生命の働きを可能にしているからです。
そして、その構造もまた、生命の働きによって絶えず維持・修復・再編されています。
構造が働きを支える。
働きが構造をつくり直す。
つくり直された構造が、次の働きを支える。
物質が入れ替わり、構造が変化しても、その部分どうしのつながりが受け継がれることで、一つの生命としての連続性が保たれています。
生命は、この循環によって自らを保っています。
第一記事では、生命が変化に応答し、自らをつくり直すことを「生成」と呼び、その過程の中で健康もまた生成すると考えました。
今回見えてきたのは、生命の生成と、その過程における身体の健康生成を支える仕組みです。
生命は、構造をそのまま保存することで続いているのではありません。
構造が働きを支え、働きが構造をつくり直す循環の中で、その構造とつながりを絶えず生み直しているのです。
そして、その循環の中で、生命がまとまりと生きる力を保ちながら変化に応答し、次の営みへ生をつなぐところに、身体の健康が生成します。
この身体における健康生成だけで、人間のwell-beingが生成するわけではありません。
しかし、人間が日々の生活を営み、自らの人生を生きていくための身体的な基盤となります。
次の記事では、生存・生活・人生へと視野を広げ、それらが互いに関わる中で、Life全体にwell-beingがどのように生成するのかを考えます。

