なぜ、後悔したくない人ほど悩むのか ― 悩みと後悔の悪循環から抜け出すために

はじめに:後悔したくないから、決められない
転職するか、今の仕事を続けるか。
人生には、どちらを選べばよいのか、なかなか決められない場面があります。
転職してうまくいかなければ、「前の仕事を続けていればよかった」と後悔するかもしれません。
けれども、今の仕事を続ければ、「あのとき挑戦していればよかった」と後悔するかもしれません。
どちらを選んでも後悔する可能性があるため、できるだけ慎重に考えようとします。
情報を集め、利点と欠点を比較し、将来の自分がどう感じるかまで想像します。
それでも決められず、同じことを何度も考えてしまうことがあります。
私たちは、後悔したくないからこそ悩むことがあります。
しかし、ここには一つの逆説があります。
後悔しないために悩んでいるのに、後悔を避けようとするほど、かえって選択が難しくなることがあるのです。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。
そして、後悔しない選択を求め続けることから、自由になることはできるのでしょうか。
後悔したくないという思いが、悩みを生む
私たちは何かを選択するとき、その結果がどうなるかを予測しようとします。
しかし、予測しているのは、出来事や結果だけではありません。
その結果を経験したとき、自分がどのように感じるかについても考えています。
「失敗したら、どれほど後悔するだろう」
「別の選択をしていればよかったと思うのではないか」
心理学では、このように将来の後悔を予測することを、「予期的後悔」と呼びます。
予期的後悔は、決して悪いものではありません。
例えば、高額な買い物をするとき、後で後悔しないように価格や品質を調べることは、適切な判断につながります。
仕事や住まいなど、人生に大きな影響を与える選択では、なおさら慎重に考える必要があります。
しかし、後悔を避けたいという思いが強くなりすぎると、事情が変わってきます。
できるだけよい選択をしようとするだけでなく、後悔する可能性そのものをなくそうとするからです。
ところが、未来の結果を完全に予測することはできません。
転職先の職場環境が実際にどうなのか、そこでどのような人と出会い、自分がどのように変わっていくのかは、働いてみなければ分からない部分があります。
自分の選択だけでなく、他者の行動や社会の変化、偶然の出来事も結果に影響します。
それにもかかわらず、「絶対に後悔しない選択をしたい」と考えると、考えても解消できない不確実性をなくそうとして、悩み続けることになります。
ここで大切なのは、よく考えることと、考え続けることは同じではないという点です。
必要な情報を集め、自分が大切にするものを整理することは、選択に役立ちます。
しかし、どれほど考えても分からない未来について、確実な答えを求め続けても、決断に近づくとは限りません。
後悔したくないという思いが、かえって決断を難しくしてしまうのです。
後悔は、次の選択にも影響する
十分に悩んだ末に、一つの道を選んだとします。
しかし、選択した結果が、すべて期待どおりになるとは限りません。
人生の重要な選択では、何かを得る一方で、別の可能性を手放すことがあります。
ただし、期待どおりの結果にならなかったことと、後悔することは同じではありません。
結果に満足できない部分があっても、自分の選択を納得して受け止められることがあります。
一方で、十分によい結果が得られていても、「別の選択をしていれば、もっとよかったかもしれない」と考え、後悔することもあります。
後悔は、実際の結果だけでなく、選ばなかった可能性との比較によっても生まれるからです。
そして、この後悔の経験は、次の選択にも影響することがあります。
例えば、以前の転職を後悔している人は、再び転職を考えるとき、同じ失敗を繰り返したくないと思うかもしれません。
そのため、以前よりも慎重に情報を集め、さまざまな可能性を検討するようになります。
過去の経験から学ぶことは、大切です。
しかし、「もう二度と後悔したくない」という思いが強すぎると、今度こそ確実によい結果が得られる選択を求めるようになります。
その結果、以前よりも決断が難しくなることがあります。
また、後悔した経験から、「自分の判断が間違っていた」と強く感じることもあります。
すると、次の選択では、結果が悪くなることだけでなく、再び自分の判断を間違えることも恐れるようになります。
どれほど慎重に考えても、望ましくない結果になる可能性は残るため、ますます確実な答えを求めてしまうのです。
過去の後悔は、次の選択に生かせる学びにもなれば、次の選択を難しくする恐れにもなり得るのです。
悩みと後悔は、なぜ悪循環になるのか
ここまで考えてくると、選択前の悩みと選択後の後悔には、共通した心の働きがあることに気づきます。
選択する前には、「こちらを選んだらどうなるだろう」「あちらの方がよいのではないか」と、複数の未来の可能性を比較します。
一方、選択した後には、「あちらを選んでいれば、もっとよかったのではないか」と、実際には選ばなかった可能性を思い描くことがあります。
選択前には、まだ起きていない未来の可能性を比較し、選択後には、実際には選ばなかった道を思い描きます。
どちらにも、実際には経験していない可能性を想像し、比較するという共通点があります。
この心の働きは、よりよい選択を考えたり、経験から学んだりするために役立ちます。
しかし、後悔を完全に避けようとする思いが強すぎると、選択の前後で、同じような考えを繰り返すことになります。
選択前には、後悔しない結果を得ようとして悩み続けます。
選択後には、選ばなかった道の方がよかったのではないかと考え続けます。
心理学では、否定的な出来事や感情について、同じような考えを繰り返し、そこから抜け出せなくなることを「反すう」と呼びます。
反すうによって後悔が長引くと、次の選択では、同じ思いを繰り返したくないという恐れが強まることがあります。
その結果、以前よりも慎重になり、より確実な選択を求めるようになります。
こうして、後悔への恐れが過度な悩みを生み、選択後の後悔が次の選択への恐れを強めるという悪循環が形成されることがあるのです。
この悪循環の背景には、「十分に考えれば、間違えない選択ができるはずだ」という期待があるのかもしれません。
しかし、どれほど慎重に考えても、未来の結果を完全にコントロールすることはできません。
それにもかかわらず、望ましくない結果をすべて自分の判断の問題として受け止めると、次の選択では、さらに確実な判断を求めるようになります。
ただし、このような悪循環が、すべての人に起こるわけではありません。
また、悩むことや後悔すること自体が問題なのでもありません。
悩むことは、自分にとって何が大切なのかを考える機会になります。
後悔することも、過去の経験から学び、次の行動を改善するきっかけになります。
問題となるのは、後悔を完全に避けようとするあまり、選択する前にも、選択した後にも、考え続けることにとらわれてしまうことです。
では、この悪循環から抜け出すには、どうすればよいのでしょうか。
後悔する可能性を受け入れると、選択が変わる
悩みと後悔の悪循環から抜け出すためには、選択に対する考え方を変える必要があるのかもしれません。
私たちは、後悔しないために、できるだけ確実な結果を求めます。
しかし、未来には不確実な部分が残るため、後悔しないことを保証する選択はできません。
この事実を受け入れると、選択するときに求めるものが変わります。
これまでは、未来の結果について確実な答えを得ようとしていました。
しかし、そのような答えが得られないことを認めると、結果が確実になるまで考え続ける必要はない、と考えられるようになります。
その代わりに、今分かっていることと、自分が大切にするものを基準に、選択できるようになります。
つまり、未来の結果を確実にすることから、現在の自分が納得できる判断をすることへと、選択の基準が変わるのです。
もちろん、これは何も考えずに決めることではありません。
必要な情報を集め、利点と欠点を比較し、自分が大切にするものを整理することは重要です。
そのうえで、どれほど考えても分からないことが残るのを認めます。
自分にできることを行うことと、結果を完全にコントロールしようとすることは違うからです。
心理学でいう「心理的柔軟性」には、このような態度も含まれます。
不安や後悔への恐れを無理になくそうとするのではなく、それらがあっても、自分が大切にすることに沿って行動するという態度です。
例えば、転職するかどうかを考えるとき、「どちらを選べば後悔しないだろう」という問いだけで考えるのではなく、「私は、仕事を通して何を大切にしたいのだろう」と問い直してみます。
安定した生活を大切にしたいのか。
新しい仕事に挑戦することを大切にしたいのか。
家族と過ごす時間を大切にしたいのか。
どれが正しいというわけではありません。
また、大切にしたいものが複数あり、それらが互いに対立することもあるでしょう。
それでも、自分が何を大切にしたいのかを考えることで、選択の基準は少しずつ明確になります。
そして、十分に考えても分からないことが残るなら、その不確実性を受け入れながら決断します。
もちろん、その結果を後悔することがあるかもしれません。
しかし、現在の自分が納得して選んだからといって、将来の後悔がなくなるわけではないことも、あらかじめ認めておく必要があります。
それでも、後悔することを恐れて選択を避け続ける必要はありません。
後悔する可能性を受け入れることで、後悔を完全に避けようとする悩みにとらわれず、自分が大切にするものに基づいて選択しやすくなるのではないでしょうか。
おわりに:後悔しない選択を探すよりも
人生には、どれほど考えても、どちらを選べばよいのか分からないことがあります。
そんなとき、私たちは、後悔しない選択を見つけようとして悩み続けることがあります。
しかし、未来の結果を完全に予測することはできません。
そして、どのような選択にも、後悔する可能性は残ります。
だからこそ大切なのは、後悔する可能性をなくすことではなく、その可能性があることを受け入れながら、自分が大切にするものに基づいて選択することではないでしょうか。
選択した後に、思いどおりにならないことが起こるかもしれません。
それでも、私たちはその結果を受け止め、そこからまた次の選択をすることができます。
後悔しない選択を探し続けるのではなく、後悔するかもしれない未来に向かって、それでも自分で選択する。
そのような態度が、悩みと後悔の悪循環から、少しずつ自由になるための一つの道なのだと思います。

