なぜ、今、ヘルスケアが重要なのか

はじめに

最近、「ヘルスケア」という言葉を耳にする機会が増えています。

病院で行われる医療だけでなく、健康づくり、病気の予防、健診、介護、健康経営、デジタルヘルスなど、さまざまな場面で使われています。

では、そもそもヘルスケアとは何を意味するのでしょうか。

そして、なぜ今、ヘルスケアがこれほど重要になっているのでしょうか。

今回は、WHO(世界保健機関)、OECD(経済協力開発機構)、厚生労働省、内閣府などの公的な資料をもとに、その背景を考えてみたいと思います。

ヘルスケアとは何か

ヘルスケアの重要性を考える前に、まずその意味を確認しておきましょう。

OECD、Eurostat(欧州連合統計局)、WHOが共同で策定した国際的な保健医療会計の標準『A System of Health Accounts 2011』では、ヘルスケアに含まれる活動の範囲を示しています。

その内容を逐語的に訳すと、

「専門的な保健医療知識を適用することを通じて、人々の健康状態を改善し、維持し、その悪化を予防し、さらに健康が損なわれたことによる影響を軽減することを主たる目的とする、すべての活動」

となります。

ここで注目したいのは、ヘルスケアが「病気を治療すること」だけを意味しているのではないことです。

この定義には、健康状態を改善すること、維持すること、悪化を予防すること、そして健康が損なわれたことによる影響を軽減することまで含まれています。

実際、この国際的な枠組みには、健康増進や予防、診断・治療、リハビリテーション、慢性疾患のある人へのケア、緩和ケアなど、幅広い活動が含まれています。

それでは、なぜ今、このような幅広い意味でのヘルスケアが重要になっているのでしょうか。

1.長寿化と高齢化が進んでいる

第一の理由は、世界的に長寿化と高齢化が進んでいることです。

WHOによれば、2030年には世界の6人に1人が60歳以上となり、60歳以上の人口は2020年の10億人から2030年には14億人、2050年には21億人になると予測されています。

日本では高齢化がさらに進んでおり、内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によれば、2024年10月1日時点で65歳以上の人口は3,624万人、総人口に占める割合は29.3%に達しています。

長く生きられるようになったことは、医療や公衆衛生の発展によって人類が得てきた大きな成果です。

しかし、人生が長くなれば、「どれだけ長く生きるか」だけではなく、長くなった人生を、どれだけ健康に過ごすことができるかという課題も重要になります。

長寿社会では、病気になったときに治療するだけでなく、生涯にわたって健康を維持し、生活機能を保っていくためのヘルスケアが、これまで以上に重要になります。

2.慢性疾患が大きな健康課題になっている

第二の理由は、長期にわたる対応を必要とする慢性疾患が、大きな健康課題となっていることです。

WHOによれば、心血管疾患、がん、糖尿病、慢性呼吸器疾患などの非感染性疾患(NCDs)は、世界の死亡の約4分の3を占めています。

こうした慢性疾患は一般に長い経過をたどり、遺伝的要因、生理的要因、環境要因、行動要因など、さまざまな要因が複合して発症するとされています。

そのため、一度の治療だけですべてが解決するとは限らず、長期間にわたって病気と付き合いながら、健康状態を管理していくことも必要になります。

慢性疾患が大きな健康課題となる時代には、急性期の治療だけではなく、長い時間軸で人の健康を支えるヘルスケアが重要になります。

3.健康を守るには、治療だけでは十分ではない

第三の理由は、病気になった後の治療に加えて、健康の維持、疾病の予防、重症化の予防などを連続して考える必要があることです。

厚生労働省が2024年度から進めている「健康日本21(第三次)」では、「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」を目標として、生活習慣病の発症予防・重症化予防、生活機能の維持・向上などが掲げられています。

これは、治療の重要性が低くなったということではありません。

必要な治療を行うことに加えて、健康なときから健康を維持し、病気の発症を予防し、病気になった後も悪化を防ぎながら生活を支えていくことが重要になっているということです。

これは、先ほど紹介したヘルスケアの定義にある、健康状態を「改善する」「維持する」「悪化を予防する」「健康が損なわれたことによる影響を軽減する」という考え方そのものでもあります。

4.医療と介護を持続可能なものにする必要がある

第四の理由は、人々の健康を支える医療や介護の仕組みを、将来にわたって維持していく必要があることです。

OECDの『Health at a Glance 2025』によれば、2024年のOECD加盟国では平均してGDPの9.3%が保健医療に使われ、保健・社会ケア分野で働く人は雇用全体のおよそ9人に1人を占めています。

高齢化、医療技術の進歩、医療への期待の高まりなどを背景として、今後も保健医療への支出や人材需要が増えていくことが見込まれています。

こうした状況で必要なのは、単純に医療費を減らすことではありません。

病気になった人が必要な医療や介護を受けられる体制を維持しながら、同時に、病気を予防し、健康状態の悪化を防ぎ、できるだけ健康に生活できるよう支えていくことが重要です。

OECDも、喫煙、肥満、有害な飲酒などの健康リスクに対する予防的な介入には、費用対効果の高いものが多いことを指摘しています。

必要な医療や介護を将来にわたって提供していくためにも、予防や健康維持を含めたヘルスケアを充実させることが求められています。

5.健康は、社会環境にも左右される

第五の理由は、人の健康が、本人の生活習慣だけでなく、その人を取り巻く社会環境にも大きく影響されることです。

WHOは「健康の社会的決定要因」として、人が生まれ、育ち、生活し、働き、年齢を重ねる環境や、社会のさまざまな仕組みが健康に影響することを示しています。

教育、所得、住居、労働環境、食物へのアクセス、社会保障などの条件によって、健康状態や健康に生きられる可能性には違いが生じます。

日本の「健康日本21(第三次)」でも、「個人の行動と健康状態の改善」とともに、「社会環境の質の向上」が基本的な方向として掲げられています。

そのため、ヘルスケアを考える際にも、個人への働きかけだけではなく、その人の健康に影響する社会環境に目を向ける必要があります。

ヘルスケアは、社会全体の課題になっている

ここまで見てきたように、ヘルスケアの重要性が高まっている理由には、長寿化と高齢化、慢性疾患の増加、予防や健康維持の必要性、医療・介護の持続可能性、そして健康に影響する社会環境があります。

これらが重なる現在、病気になった人を治療するだけではなく、生涯にわたって人の健康を支えることが必要になっています。

改めて冒頭の定義に戻れば、求められているのは、まさに健康状態を改善し、維持し、その悪化を予防し、健康が損なわれたときにはその影響を軽減するという、幅広いヘルスケアの取り組みです。

こうしたヘルスケアの重要性は、WHO、OECD、日本政府などの公的な資料にも、共通して示されています。

おわりに

私たちは、かつてないほど長く生きることのできる時代を生きています。

だからこそ、病気になったときにどう治療するかだけではなく、健康なときからどのように健康を保ち、病気を予防し、健康が損なわれた後もどのように支えていくかを考えることが重要になっています。

ヘルスケアは、医療だけの問題でも、健康に関心のある人だけの問題でもなく、長寿社会を生きる私たち一人ひとりと、これからの社会全体に関わる課題になっています。

では、人の健康を支えるヘルスケアを考えるとき、身体や病気だけを見ていれば十分なのでしょうか。

次の記事では、「なぜ、ヘルスケアを全人的に考える必要があるのか」について考えてみたいと思います。

引用・参考資料

  1. OECD, Eurostat, World Health Organization. A System of Health Accounts 2011: Revised Edition. OECD Publishing, 2017. DOI: 10.1787/9789264270985-en.
  2. World Health Organization. Ageing and health. Fact sheet.
  3. 内閣府『令和7年版高齢社会白書』2025年.
  4. World Health Organization. Noncommunicable diseases. Fact sheet.
  5. 厚生労働省『健康日本21(第三次)』.
  6. OECD. Health at a Glance 2025: OECD Indicators. OECD Publishing, 2025. DOI: 10.1787/8f9e3f98-en.
  7. World Health Organization. Social determinants of health. Fact sheet.

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