計画は、押しつけではなく、橋渡しである ― 動機づけ面接における「計画する」

はじめに:意欲はあるのに、具体的な一歩にならない

養生支援の場では、目の前の人が、少しずつ変わりたい気持ちを言葉にし始めることがあります。

「このままではよくないと思います」

「少し運動した方がいいとは思っています」

「疲れにくい体にしたいです」

「食事も、少し見直した方がいいですよね」

このような言葉を聞くと、支援する側は少し安心します。

変わる理由が出てきた。
本人も必要性を感じている。
では、次は具体的な計画に進めばよい。

そう考えて、

「では、毎日30分歩きましょう」

「夜10時には寝るようにしましょう」

「甘いものを控えましょう」

「まずは野菜を増やしましょう」

と提案することがあります。

一つひとつは、間違った提案ではありません。
どれも健康にとって意味のある行動です。

けれども、いざ生活に戻ると続かないことがあります。

仕事から帰ると疲れている。
家族の都合で予定が変わる。
食事を整えたいけれど、買い物や調理の余裕がない。
大きな目標を立てたことで、できなかったときに自己嫌悪が強くなる。

そのようなことは、決して珍しくありません。

ここで考えたいのは、計画とは何かということです。

計画は、正しい行動を決めればよいのでしょうか。

それとも、その人の願いと生活の現実がつながる一歩を、一緒に見つける必要があるのでしょうか。

正しい計画ほど、生活の中で崩れることがある

養生支援では、健康のために役立つ計画がたくさんあります。

毎日歩く。
夜更かしをやめる。
間食を減らす。
野菜を増やす。
薬を忘れずに飲む。
体重を記録する。

どれも健康にとって意味があります。
専門的に見ても、勧める理由があります。

しかし、計画が正しいことと、生活の中で続けられることは同じではありません。

たとえば、毎日30分歩くことはよい計画です。
けれども、仕事から帰ると疲れ切っている人にとっては、最初から負担が大きすぎるかもしれません。

夜10時に寝ることも大切です。
けれども、家族の世話や仕事の持ち帰りがある人にとっては、すぐには現実的でないかもしれません。

甘いものをやめることも、食事改善としては分かりやすい方法です。
けれども、その甘いものが、その人にとって一日の中で唯一ほっとする時間になっているかもしれません。

計画は、正しさだけでは成り立ちません。

その人の生活の中で引き受けられる形になって初めて、変化の一歩になります。

正しい計画であっても、生活の流れと合わなければ続きません。
本人の願いとつながっていても、現実の余力と合わなければ、負担になります。

計画を立てるときに大切なのは、正しいかどうかだけではありません。

その計画は、その人の生活の中に置けるのか。
その人が実際に引き受けられる形になっているのか。
できなかったときに、自分を責める材料になってしまわないか。

そこまで含めて考える必要があります。

計画を急ぐと、変化はまた外からの指示になる

相手が「少し変えたい」と言ったとき、支援者はすぐに計画を立てたくなります。

せっかく意欲が出てきた。
この機会を逃したくない。
具体的な行動に落としたい。
次回までに何か実行してほしい。

その思いは自然です。
支援者として、何とか変化につなげたいと思うのは当然です。

しかし、計画を急ぎすぎると、対話はまた「指導」に戻ることがあります。

たとえば、本人が、

「疲れにくい体にしたいです」

と言ったとします。

それを聞いてすぐに、

「では、毎朝20分歩きましょう」

と決める。

すると、本人の内側では、

「そこまでは言っていない」

「できるかどうか分からない」

「また宿題を出された感じがする」

「できなかったら、次に責められそうだ」

という反応が起こるかもしれません。

もちろん、支援者に悪意があるわけではありません。
むしろ、相手の言葉を聞いて、よい方向へつなげようとしているのです。

けれども、理由が本人の中から出てきても、計画を支援者が急いで決めてしまえば、変化はまた外からのものになってしまいます。

本人の中で生まれ始めた変化を、支援者の正しい計画で上書きしてしまうことがあるのです。

ここで必要なのは、意欲をすぐに行動へ変換することではありません。

その意欲が、どのような一歩なら今の生活の中で無理なく動き出せるのかを、一緒に見つけることです。

動機づけ面接では、この段階を「計画する」と呼ぶ

動機づけ面接では、変化への意欲や理由が少し見えてきたあと、それを具体的な一歩へつなげていく過程を「計画する」と呼びます。

ただし、ここでいう計画は、支援者が正しい行動を決めることではありません。

また、本人に「自分で決めてください」と丸投げすることでもありません。

本人の願い。
生活の現実。
身体の状態。
時間や環境の制約。
これまでうまくいったこと。
支援者の専門的見立て。

それらをすり合わせながら、今の生活の中で引き受けられる一歩を一緒に見つけていくことです。

計画は、変化の完成形ではありません。
生活の中で試してみる仮の一歩です。

この時点では、最初から完璧な計画を作る必要はありません。
むしろ、その人の生活の中で試し、確かめ、必要に応じて調整できる形であることが大切です。

計画は、価値と現実をつなぐ橋渡しである

変化への理由は、その人の価値や願いとつながっています。

朝を楽にしたい。
疲れにくい体にしたい。
家族と出かけられるようにしたい。
仕事を続けるために体を整えたい。
自分の体をもう少し大切にしたい。

こうした願いが言葉になることは、とても大切です。

けれども、それだけではまだ行動にはなりません。

一方で、現実の生活があります。

仕事の時間。
家族の都合。
体力の余裕。
経済的な制約。
これまでの失敗体験。
家事や介護の負担。
休むことへのためらい。

願いだけを見ていると、計画は理想に近づきすぎることがあります。
現実だけを見ていると、変化の方向が見えなくなることがあります。

計画とは、この二つをつなぐものです。

正しい行動を生活に押し込むことではありません。

本人の願いが、今の生活の中でどのような形なら少し動き出せるのかを一緒に探すことです。

その意味で、計画は橋渡しです。

価値と現実。
願いと生活。
専門的な見立てと、本人の余力。

そのあいだに、小さな橋をかけていく。

ただし、その橋は一度で完成するものではありません。

実際の生活の中で試され、揺らぎ、調整されながら、その人に合った形へ育っていきます。

それが、養生支援における計画なのだと思います。

小さすぎる一歩が、変化を始めることがある

計画を立てるとき、支援者はつい、意味のある行動を設定したくなります。

30分歩く。
毎日記録する。
間食をやめる。
夜更かしをやめる。
週に何回運動する。

もちろん、それができる人にはよい計画です。

しかし、今の生活に余裕が少ない人にとっては、その計画は大きすぎることがあります。

むしろ、最初の一歩は小さすぎるくらいでよい場合があります。

帰宅後に靴を履いて外に出るだけ。
エレベーターの前で一度階段を見てみるだけ。
寝る前にスマートフォンを5分早く置く。
甘いものをやめるのではなく、まず食べる時間を意識する。
薬を飲む場所を一か所に決める。

外から見ると、小さすぎるように見えるかもしれません。

しかし、その人の生活の中で実際にできるなら、それは意味を持ちます。

変化は、完璧にできたときだけ始まるのではありません。

自分にも少し動かせるところがある、と感じられたときに始まることがあります。

小さな一歩は、成果としては目立たないかもしれません。

けれども、その人にとっては、「できなかった自分」から「少し動かせた自分」へ見方が変わる入口になります。

小さいからこそ、生活の中に置けることがあります。
小さいからこそ、自分の生活を自分で動かせる感覚が戻ってくることがあります。

そこに、変化の土台が生まれます。

助言を生活へ返す実践――EPE

では、実際の対話では、どのように助言や情報を伝えればよいのでしょうか。

ここでは、EPE(elicit-provide-elicit)という方法を取り上げます。

EPEとは、

引き出す。
与える。
引き出す。

という流れで情報を伝える方法です。

たとえば、運動について助言したい場面で、いきなり説明するのではなく、まず尋ねます。

少し情報をお伝えしてもよいですか。

相手がよいと言ったら、短く情報を提供します。

一般には、急に長時間運動を始めるより、まず短い時間から始める方が続きやすいと言われています。

そして、もう一度尋ねます。

今の話を聞いて、ご自身にはどんな始め方が合いそうですか。

この流れにすると、情報提供が一方通行になりにくくなります。

支援者は専門的な情報を伝えます。

しかし、その情報を本人がどう受け取るか、生活の中でどう使えそうかを、もう一度本人に返します。

EPEは、助言を控えるための方法ではありません。

助言を、その人の生活に根づく形で渡すための方法です。

大切なのは、情報を伝えたあとに、本人の生活へ戻すことです。

「今の話を聞いて、どんな始め方が合いそうですか」

「それなら、今の生活のどこに置けそうですか」

このように尋ねることで、計画は支援者の説明からではなく、本人の生活の中から形を取り始めます。

計画は、できなかったときに終わるものではない

計画を立てると、どうしても「できたか、できなかったか」で評価しがちです。

歩けた。
歩けなかった。

記録できた。
記録できなかった。

甘いものを控えられた。
控えられなかった。

もちろん、実行できたかどうかを見ることは必要です。

しかし、できなかったから失敗というわけではありません。

計画が実行できなかったとき、そこには大切な情報があります。

時間帯が合わなかった。
目標が大きすぎた。
家族の予定に左右された。
疲れが予想以上に強かった。
その行動に意味を感じにくかった。
やり方が生活の流れと合っていなかった。

できなかったことは、本人の意思が弱い証拠ではないかもしれません。

計画と生活の接続が、まだ合っていなかったという情報かもしれません。

そう考えると、できなかったことも次の対話の材料になります。

「どこが難しかったですか」

「どの時間帯なら少しやりやすそうですか」

「少し小さくするとしたら、どんな形になりそうですか」

「その計画は、今の生活に合っていたでしょうか」

このように見直していくことで、計画は少しずつその人の生活に合う形へ変わっていきます。

計画は、守るべき約束というより、生活の中で試しながら調整していく仮説なのです。

計画が育つと、変化は生活の一部になる

最初の計画は、小さく、不完全で、試しのようなものでよいのだと思います。

試してみる。
うまくいったところを見る。
うまくいかなかったところを責めずに見直す。
少し変える。
もう一度試す。

そうしていくうちに、計画は支援者から与えられたものではなく、その人の生活の中で育っていきます。

最初は、

「運動しなければならない」

だったものが、

「夕方に少し外に出ると、気分が変わる」

「朝に体を動かすと、仕事に入りやすい」

「歩く時間が、自分を整える時間になっている」

という感覚へ変わることがあります。

ここまで来ると、行動は単なる義務ではなく、生活の一部になり始めます。

よい計画とは、支援者の指示どおりに実行される計画ではありません。
その人の生活の中で、少しずつその人のものになっていく計画です。

変化は、計画を立てた瞬間に完成するわけではありません。

生活の中で試され、調整され、意味を持ち始めることで、少しずつ根づいていくものです。

おわりに:一歩を決めることは、生活を組み替える入口になる

支援者には、提案したい行動があります。
専門家として伝えるべき情報もあります。
計画を立てることも必要です。

けれども、計画は正しい行動を押しつける場面ではありません。

本人の願い。
生活の現実。
身体の状態。
支援者の見立て。
これまでの経験。
これから大切にしたい方向。

それらをつなぎながら、今の生活の中で引き受けられる一歩を見つけていく。

その一歩は、小さくてよい。
不完全でよい。
あとから調整されてよい。

大切なのは、その一歩が本人の生活の中で少し動き出すことです。

計画は、正しい行動を決めることではありません。
本人の願いと、生活の現実をつなぐ橋渡しです。

その橋を渡る一歩は、小さくてもかまいません。
その人の生活の中で実際に踏み出せる一歩であること。

そこから、変化は少しずつ生活の中に根づいていくのだと思います。


補足:この記事に関連する動機づけ面接の言葉

計画する

動機づけ面接の4つのプロセスの一つです。

本人の中から変わる理由や意欲が見えてきたとき、それを具体的な一歩へつなげていく段階です。

EPE(elicit-provide-elicit)

EPEとは、「引き出し-与え-引き出す」の流れで情報を伝える方法です。

一方的に助言するのではなく、本人の受け取り方や生活への合い方を確認しながら情報を提供します。

変化計画

変化に向けた具体的な一歩を整理したものです。

何を、いつ、どのように、どのくらい行うかを、その人の生活に合う形で考えます。


4回を通して考えてきたこと

4回にわたり、動機づけ面接の4つのプロセスを手がかりに、養生支援における対話について考えてきました。

関わるとは、安心して語れる関係を整えること。

フォーカスとは、本人の生活全体の中で焦点を見つけること。

引き出すとは、本人の中にある理由や願いが言葉になるように聴くこと。

計画するとは、その願いと生活の現実をつなぐ一歩を見つけること。

この流れをたどると、変化は外から起こすものではなく、対話の中で少しずつ生成されていくものとして見えてきます。

養生支援において大切なのは、相手を動かすことではありません。

その人の中で変化が生まれ、育っていく条件を整えることなのだと思います。

 

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