ホロン的調和と未病:生命の智慧から、健康と生き方を捉え直す(第3回)

細胞レベルのホロン的調和 ― 健康な細胞は、どうやって全体と協調しているのか

はじめに

私たちの体は、約37兆個の細胞から成り立っています。
その一つひとつは、単なる「部品」ではありません。細胞は、自分でエネルギーを生み、環境の変化を感じ取り、必要に応じて働き方を変える、それ自体が生きた存在です。

つまり細胞は、全体として完結した生命であると同時に、組織や臓器、そして個体という、より大きな全体の一部としても機能している存在です。
この「全体でありながら、部分でもある」という在り方こそが、生命の基本構造であり、ホロン的調和の原型です。

では、健康な細胞とはどのような状態なのでしょうか。
そして、その調和が静かに崩れ始めたとき、体の中では何が起きているのでしょうか。

単細胞生物が確立した「全体性」

生命の歴史を振り返ると、最初に現れたのは単細胞生物でした。
単細胞生物は、たった一つの細胞でありながら、外界と自分を隔てる境界を持ち、エネルギーを取り込み、不要なものを排出し、環境に応答しながら生きています。

つまり生命は、誕生の時点ですでに「自律した全体性」を獲得していたのです。
生命にとって最初に必要だったのは、他とつながることではなく、自分として成り立つことでした。

この全体性がなければ、生命は維持できません。

多細胞生物への進化がもたらした革命

やがて生命は、多細胞生物へと進化します。
ここで起きたことは、「個が自己を犠牲にした」ことではありません。

多細胞生物では、各細胞は依然として生きています。
代謝を行い、自己を維持しながら、神経細胞、筋細胞、免疫細胞など、それぞれの役割を引き受けるようになったのです。

重要なのは、分化が「価値の序列」ではないという点です。
筋細胞は、神経細胞になれなかった存在ではありません。
それぞれが、全体の中で異なる機能を担っているだけです。

ここに、生命の大きな智慧があります。

全体性を失うことなく、部分性を引き受ける。

これが、多細胞生命が成功した理由です。

健康な細胞は「命令」に従っていない

私たちは、体の中で細胞が司令塔の命令に従って動いているようなイメージを持ちがちです。
しかし実際には、細胞は上からの命令で動いているわけではありません。

細胞は、

  • 周囲の環境
  • 全体の状態
  • 他の細胞からのシグナル

を感知しながら、自ら判断し、応答しています。

ホルモン、神経、局所的な化学シグナルは、命令というより対話です。
健康な協調とは、支配や統制ではなく、感応と応答によって成り立っています。

ホロン的調和が保たれている細胞の姿

ホロン的に調和している細胞には、共通する特徴があります。

  • 自己を維持できている(全体性)
  • 必要なときに、必要な働きをする(部分性)
  • 常に最大限に働こうとしない
  • 無理をし続けない

ここで重要なのは、健康とは「よく働くこと」ではないという点です。
健康とは、全体の状態に応じて、適切に働ける余裕が保たれていることです。

細胞レベルの未病とは何か

では、未病はどこから始まるのでしょうか。

細胞レベルの未病とは、

  • 慢性的なストレス
  • 持続する炎症
  • 過剰な代謝負荷

などによって、まだ壊れてはいないが、余裕が失われ始めている状態です。

機能低下でも、病変でもありません。
しかし、調和は確実に揺らぎ始めています。

未病とは、まさにこの「静かな揺らぎ」の段階を指します。

がんをホロン的破綻として捉える視点

がんは、細胞が悪意を持った結果ではありません。
ホロン的に見ると、それは全体との対話を失った細胞の姿と捉えることができます。

全体の状態に応答せず、自己の増殖だけを優先する。
それは、極端な意味での「全体性の喪失」であり、「部分性の拒否」です。

ここでも、問題は善悪ではなく、調和の破綻なのです。

細胞から私たちへの問い

細胞の生き方を見ていると、私たち自身の姿が重なってきます。

  • 私たちは、社会の中で無理を続けていないでしょうか。
  • 全体性(自分らしさ)を保ったまま、役割を引き受けているでしょうか。
  • 「がんばり続けること」を、健康だと誤解していないでしょうか。

細胞は、無理を続けることで健康を失います。
人間もまた、同じ生命の原理の上に生きています。

次回に向けて

細胞が、全体性を失わずに部分として生きているように、
私たち人間もまた、社会の中でホロンとして生きています。

次回は、個体レベルのホロン的調和――
自分らしさと社会適応は本当に両立できるのか、という問いを考えていきます。

第4回「個体レベルのホロン的調和」を読む→

 

「ホロン的調和と未病」は、以下の3部(全8回)で構成されています。

【第1部:未病を問い直す】
第1回|未病とは何か? ― 病気の手前ではなく、「調和のゆらぎ」としての未病
第2回|ホロンという視点 ― 私たちは「全体であり、部分でもある」存在

【第2部:生命はどう調和しているのか】
第3回|細胞レベルのホロン的調和 ― 健康な細胞は、どうやって全体と協調しているのか
第4回|個体レベルのホロン的調和 ― 自分らしさと社会適応は、両立できる
第5回|社会レベルの未病 ― 社会もまた、ひとつの生命システムである

【第3部:調和の中で生きる】
第6回|調和させるのではなく、調和の中で生きる ― 無為自然・禅・縄文的在り方との接続
第7回|ホロン的調和としての健康 ― 健康とは、コントロールではなく統合である
第8回|未病を学ぶということ ― 生命の調和を観察し、育てるという知性

\ 最新情報をチェック /

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です