ホロン的調和と未病:生命の智慧から、健康と生き方を捉え直す(第6回)

調和させるのではなく、調和の中で生きる ― 無為自然・禅・縄文的在り方から見た未病
はじめに
私たちは日常的に「調和」という言葉を使っています。
人間関係を調和させる。
心と体のバランスを調和させる。
社会の調和を保つ。
そこでは多くの場合、
調和とは
「何かを調整してつくるもの」
「乱れたものを正しく整えること」
として理解されています。
しかし、
ここで一度立ち止まって考えてみたいのです。
そもそも調和とは、
本当に“つくるもの”なのでしょうか。
もし人間が、
本来、自然的であり生命的な存在だとしたら。
もし私たち自身が、
自然や生命の調和の外側に立っているのではなく、
すでにその内側で生きているのだとしたら。
必要なのは「調和させること」ではなく、
「調和の中で生き直すこと」なのかもしれません。
「調和させる」という発想が生まれるとき
現代の医療や健康観、あるいは社会の仕組みでは、
「正しく管理すること」
「適切にコントロールすること」
が重視されます。
不調があれば修正し、
乱れがあれば整え、
問題があれば早期に是正する。
この発想自体は合理的で、多くの成果も生んできました。
一方で、その過程で私たちは、
「がんばって整え続けなければ壊れてしまう存在」
として自分自身を捉えるようにもなっています。
その結果、調和を保とうとする努力が、かえって疲労や緊張を生み、
未病とも言える違和感を積み重ねてしまうことがあります。
調和の中で生きるという立場
「調和の中で生きる」という立場に立つと、
前提が変わります。
調和は、最初から欠けているものではなく、
すでにあるものになります。
問題は「調和がない」ことではなく、
日常の無理や過剰、思考や行動の癖によって、
その調和から少しずつずれていくことです。
未病とは、何かが壊れた状態ではありません。
生命の調和が、まだ保たれているにもかかわらず、
その中に微細な揺らぎが生じ始めた状態だと
捉えることができます。
「調和」という言葉が、
理念ではなく現実の生き方になるとき、
何が起こるのでしょうか。
その具体的な姿を、物語形式で描いた記事があります。
生命の調和が、個人の生活を変え、
やがて社会へと広がっていく様子をぜひご覧ください。
無為自然という、調和への信頼
無為自然という言葉は、「何もしない」「放っておく」と誤解されがちですが、
本来は、生命がもつ自己調整の力を深く信頼する態度を指しています。
自然界では、多くの場合、過剰な介入よりも、
余計な力を抜いたときに、全体の調和が回復していきます。
未病の段階で大切なのは、
「もっと正しくしよう」とすることではなく、
「どこで無理をしているのか」に気づくことなのかもしれません。
禅が示す、日常の中の調和
禅は、社会や日常から離れる教えではありません。
むしろ、役割を引き受け、日々の営みの中に身を置きながら、
そこに執着しすぎない在り方を示しています。
仕事をする。
家庭で役割を果たす。
社会に関わる。
それらを否定するのではなく、
それと自分自身を同一化しすぎない。
この距離感こそが、
調和の中で生きるための実践なのです。
縄文的在り方に見る調和の感覚
日本人の深層にある縄文的な在り方では、
調和は理念として語られるものではありませんでした。
ルールや言葉よりも、
関係性や気配、間合いによって保たれていました。
調和とは「守るべき正しさ」ではなく、
感じ取り、壊さずに生きるものだったのです。
未病は、生命からのメッセージ
この視点に立つと、未病は敵ではなくなります。
未病は、「もっと整えなさい」という警告ではなく、
「少し立ち止まってほしい」という生命からのサインです。
病気になる前だからこそ、
調和の中に戻る余地が、まだ十分に残されています。
ホロン的調和としての生き方
人は、一人の独立した存在であると同時に、
社会という全体の一部でもあります。
自分らしさ(全体性)を失わず、
同時に社会の中で役割を引き受ける(部分性)。
この二つが対立せず、自然に両立している状態を、
私は「ホロン的調和」と呼びたいと思います。
個人がこの調和の中で生きるとき、
社会の調和は結果として静かに育っていきます。
次回に向けて
未病を学ぶとは、
症状を減らす技術を身につけることではなく、
生命の調和に気づく感性を育てることなのかもしれません。
次回は、この「ホロン的調和」を、
健康という概念そのものとして捉え直してみたいと思います。
「ホロン的調和と未病」は、以下の3部(全8回)で構成されています。
【第1部:未病を問い直す】
第1回|未病とは何か? ― 病気の手前ではなく、「調和の揺らぎ」としての未病
第2回|ホロンという視点 ― 私たちは「全体であり、部分でもある」存在
【第2部:生命はどう調和しているのか】
第3回|細胞レベルのホロン的調和 ― 健康な細胞は、どうやって全体と協調しているのか
第4回|個体レベルのホロン的調和 ― 自分らしさと社会適応は、両立できる
第5回|社会レベルの未病 ― 社会もまた、ひとつの生命システムである
【第3部:調和の中で生きる】
第6回|調和させるのではなく、調和の中で生きる ― 無為自然・禅・縄文的在り方との接続
第7回|ホロン的調和としての健康 ― 健康とは、コントロールではなく統合である
第8回|未病を学ぶということ ― 生命の調和を観察し、育てるという知性


