ホロン的調和と未病:生命の智慧から、健康と生き方を捉え直す(第8回)

未病を学ぶということ ― 生命の調和を観察し、育てるという知性

はじめに

未病を学ぶというと、多くの人は
「病気を防ぐための知識」
「健康に役立つ情報」
を思い浮かべるかもしれません。

けれども、この連載で見てきたように、未病とは
単なる予防医学の概念ではありません。

未病とは、
細胞・個体・社会という異なるレベルにおいて、
生命の調和がどのように揺らぎ、
どのように回復しようとしているのかを
観察するための視点です。

未病を学ぶことは、
体を管理することでも、
正しい生き方を身につけることでもありません。

それは、
生命が本来もっている調和の智慧に、
もう一度、耳を澄ませることなのだと思います。

未病は「知識」ではなく「視点」である

未病について学ぶというと、
どうしても「何をすればいいのか」という
行動指針を求めたくなります。

しかし未病は、
チェックリストのように扱うと、
その本質から遠ざかってしまいます。

未病は、覚えるものではありません。
一度身につくと、
ものの見え方そのものが変わる「視点」です。

体の違和感
気分の揺らぎ
人間関係の摩擦
社会に対する息苦しさ

それらを、
すぐに「異常」や「問題」として処理するのではなく、
調和がどこで、どのように揺らいでいるのか
という問いとして眺める。

未病の視点とは、
正解を急がず、
状態を観察する知性だと言えるでしょう。

ホロン的調和という「ものさし」

この連載では、
「ホロン的調和」という言葉を軸にして、
未病を捉え直してきました。

ホロンとは、
全体であると同時に、部分でもある存在です。

細胞は、
一つの生命として自律しながら、
同時に個体という全体の一部として機能しています。

人間も同じです。
一人の独立した存在でありながら、
社会という全体の一部でもある。

ホロン的調和とは、
この全体性と部分性が矛盾なく保たれている状態です。

この視点に立つと、
健康と不健康は二分できなくなります。

問うべきなのは、
「正常か異常か」ではなく、
「どこで、どの関係が、少し無理をしているのか」。

未病とは、
この“ものさし”によって初めて見えてくる、
調和の微細な揺らぎなのです。

未病は、生命が発する「微かな声」

未病という言葉には、
どこか否定的な響きがあります。

けれども本来、未病は
「まだ病気ではない状態」を指すだけではありません。

それは、
生命が自らの調和を回復しようとする過程で、
発している微かなサインでもあります。

疲れやすさ
眠りの浅さ
気分の落ち込み
理由のはっきりしない不調

それらは、
敵でも失敗でもありません。

むしろ、
生命が「少し立ち止まってほしい」と
語りかけている声です。

その声を無視し続ければ、
やがて病という形で、
より強く現れてくるかもしれません。

しかし、
その声に耳を澄まし、
調和を取り戻す余地を与えれば、
病に至らずに済むことも多い。

未病とは、
生命と対話するための入口なのです。

調和を「作る」のではなく、調和に「戻る」

現代の健康法には、
「整えよう」「改善しよう」「コントロールしよう」
という言葉があふれています。

もちろん、
意識的なケアが必要な場面もあります。

しかし、
調和というものは、
力を入れすぎるとかえって壊れてしまうことがあります。

無理に前向きになろうとすること
過剰に自分を律すること
正しい生活を守ろうとしすぎること

それらが、
新たな未病を生んでしまうことも少なくありません。

調和は、
作り出すものではありません。

多くの場合、
すでにある調和に戻ることが大切なのです。

足し算よりも引き算。
努力よりも緩和。
管理よりも信頼。

未病の視点は、
私たちにそのことを静かに思い出させてくれます。

未病を学ぶ人に起きる変化

未病を学び続けると、
少しずつ、しかし確実に変化が起こります。

自分に対して、
すぐに結論を出さなくなります。

他者に対しても、
「正す」より「理解する」姿勢が生まれます。

不調や失敗を、
排除すべきものではなく、
調整のプロセスとして扱えるようになります。

それは、
健康になるというよりも、
生き方が穏やかに変わっていく感覚に近いかもしれません。

生命の調和の中で、生き続けるために

生命は、
常に完全な調和の中にあるわけではありません。

揺らぎ、崩れ、
また戻ろうとする。

未病とは、
その動きそのものを見つめる視点です。

未病を学ぶとは、
病気にならないための準備ではありません。

それは、
生命の調和の中で、
自分自身として生き続けるための、
静かな知性を育てることなのだと思います。

この連載が、
未病を「対処すべきもの」ではなく、
「探究してみたいもの」として
感じていただくきっかけになったなら、
それ以上のことはありません。

 

「ホロン的調和と未病」は、以下の3部(全8回)で構成されています。

【第1部:未病を問い直す】
第1回|未病とは何か? ― 病気の手前ではなく、「調和の揺らぎ」としての未病
第2回|ホロンという視点 ― 私たちは「全体であり、部分でもある」存在

【第2部:生命はどう調和しているのか】
第3回|細胞レベルのホロン的調和 ― 健康な細胞は、どうやって全体と協調しているのか
第4回|個体レベルのホロン的調和 ― 自分らしさと社会適応は、両立できる
第5回|社会レベルの未病 ― 社会もまた、ひとつの生命システムである

【第3部:調和の中で生きる】
第6回|調和させるのではなく、調和の中で生きる ― 無為自然・禅・縄文的在り方との接続
第7回|ホロン的調和としての健康 ― 健康とは、コントロールではなく統合である
第8回|未病を学ぶということ ― 生命の調和を観察し、育てるという知性

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