細胞レベルのホロン的調和 ― 健康な細胞は、どうやって全体と協調しているのか
はじめに
私たちの体は、約37兆個の細胞から成り立っています。
その一つひとつは、単なる「部品」ではありません。細胞は、自分でエネルギーを生み、環境の変化を感じ取り、必要に応じて働き方を変える、それ自体が生きた存在です。
つまり細胞は、全体として完結した生命であると同時に、組織や臓器、そして個体という、より大きな全体の一部としても機能している存在です。
この「全体でありながら、部分でもある」という在り方こそが、生命の基本構造であり、ホロン的調和の原型です。
では、健康な細胞とはどのような状態なのでしょうか。
そして、その調和が静かに崩れ始めたとき、体の中では何が起きているのでしょうか。
単細胞生物が確立した「全体性」
生命の歴史を振り返ると、最初に現れたのは単細胞生物でした。
単細胞生物は、たった一つの細胞でありながら、外界と自分を隔てる境界を持ち、エネルギーを取り込み、不要なものを排出し、環境に応答しながら生きています。
つまり生命は、誕生の時点ですでに「自律した全体性」を獲得していたのです。
生命にとって最初に必要だったのは、他とつながることではなく、自分として成り立つことでした。
この全体性がなければ、生命は維持できません。
多細胞生物への進化がもたらした革命
やがて生命は、多細胞生物へと進化します。
ここで起きたことは、「個が自己を犠牲にした」ことではありません。
多細胞生物では、各細胞は依然として生きています。
代謝を行い、自己を維持しながら、神経細胞、筋細胞、免疫細胞など、それぞれの役割を引き受けるようになったのです。
重要なのは、分化が「価値の序列」ではないという点です。
筋細胞は、神経細胞になれなかった存在ではありません。
それぞれが、全体の中で異なる機能を担っているだけです。
ここに、生命の大きな智慧があります。
全体性を失うことなく、部分性を引き受ける。
これが、多細胞生命が成功した理由です。
健康な細胞は「命令」に従っていない
私たちは、体の中で細胞が司令塔の命令に従って動いているようなイメージを持ちがちです。
しかし実際には、細胞は上からの命令で動いているわけではありません。
細胞は、
- 周囲の環境
- 全体の状態
- 他の細胞からのシグナル
を感知しながら、自ら判断し、応答しています。
ホルモン、神経、局所的な化学シグナルは、命令というより対話です。
健康な協調とは、支配や統制ではなく、感応と応答によって成り立っています。
ホロン的調和が保たれている細胞の姿
ホロン的に調和している細胞には、共通する特徴があります。
- 自己を維持できている(全体性)
- 必要なときに、必要な働きをする(部分性)
- 常に最大限に働こうとしない
- 無理をし続けない
ここで重要なのは、健康とは「よく働くこと」ではないという点です。
健康とは、全体の状態に応じて、適切に働ける余裕が保たれていることです。
細胞レベルの未病とは何か
では、未病はどこから始まるのでしょうか。
細胞レベルの未病とは、
- 慢性的なストレス
- 持続する炎症
- 過剰な代謝負荷
などによって、まだ壊れてはいないが、余裕が失われ始めている状態です。
機能低下でも、病変でもありません。
しかし、調和は確実に揺らぎ始めています。
未病とは、まさにこの「静かな揺らぎ」の段階を指します。
がんをホロン的破綻として捉える視点
がんは、細胞が悪意を持った結果ではありません。
ホロン的に見ると、それは全体との対話を失った細胞の姿と捉えることができます。
全体の状態に応答せず、自己の増殖だけを優先する。
それは、極端な意味での「全体性の喪失」であり、「部分性の拒否」です。
ここでも、問題は善悪ではなく、調和の破綻なのです。
細胞から私たちへの問い
細胞の生き方を見ていると、私たち自身の姿が重なってきます。
- 私たちは、社会の中で無理を続けていないでしょうか。
- 全体性(自分らしさ)を保ったまま、役割を引き受けているでしょうか。
- 「がんばり続けること」を、健康だと誤解していないでしょうか。
細胞は、無理を続けることで健康を失います。
人間もまた、同じ生命の原理の上に生きています。
次回に向けて
細胞が、全体性を失わずに部分として生きているように、
私たち人間もまた、社会の中でホロンとして生きています。
次回は、個体レベルのホロン的調和――
自分らしさと社会適応は本当に両立できるのか、という問いを考えていきます。



