「頭痛と腰痛」講義録

講師:喜多 敏明

開講の言葉 [佐藤一斎の言葉]

「年齢には老人と若者の区別があるが、心にはない。体の働きには老人と若者の区別があるが、心には無い。だから年齢など気にせず学んでいこうではないか」

この言葉で勇気をいただきつつ、本日は「頭痛」と「腰痛」をテーマに学びを進めました。
途中には受講生同士のシェアタイム(自己開示と傾聴)も組み込まれています。

前半:頭痛

頻度
15歳以上の有病率は39.6%(10人に4人)。
主流
多くは一次性(機能性)。代表は片頭痛・緊張型頭痛。
方針
誘因を減らし、非薬物療法+体質改善(漢方)を組み合わせる。

頭痛の全体像(一次性/二次性、有病率)

講義のポイント
  • 頭痛は有病率が高い(15歳以上:39.6%)。
  • 一次性頭痛:機能性(脳の重い病気がない)。多くはここに含まれる。
  • 二次性頭痛:症候性(くも膜下出血、脳腫瘍など)。原因疾患がある頭痛で、稀だが重要。

片頭痛/緊張型頭痛:特徴

分類 特徴
片頭痛 こめかみ・目の奥が拍動性にズキズキ。ひどいと吐き気・嘔吐を伴うことが多い。
随伴症状として「閃輝暗点(目の前にギザギザの光が走る)」がある人も。
緊張型頭痛 後頭部や頭全体が締め付けられる/重い感じ。肩こりやめまいを伴いやすい。
混合型 片頭痛と緊張型頭痛が合わさったような状態もある(講義内で「混合型」として説明)。

誘因(きっかけ)

片頭痛の誘因
  • 肩こり・ストレス(いずれも70%強)
  • 睡眠(主に睡眠不足)
  • 月経(前/中など)
  • 天気(低気圧、雨の前など)
  • 匂い(香水、洗剤、タバコなど)で誘発される人も:避ける工夫が必要
緊張型頭痛の誘因
  • 悪い姿勢、骨格のゆがみ
  • 肩こり、首の痛み
  • 歯の噛み合わせ
  • 目の疲れ
  • ストレス、睡眠障害

姿勢を正す/ほぐす/リラックス/適度な運動で誘因を抑える、という流れが示されました。

非薬物療法(緊張型頭痛を中心に)

慢性頭痛診療ガイドラインに記載の非薬物療法
  • 精神行動療法:筋電図バイオフィードバック、認知行動療法、リラクゼーション、催眠療法 など
  • 理学療法:運動プログラム、頭痛体操、マッサージ、肩部指圧、超音波、電気刺激、姿勢矯正、顎(噛みしめ等)への対応 など
  • 温める:温シップ、温熱パック
  • 鍼灸:緊張型頭痛に効果が示されている旨(西洋医学ガイドラインにも含まれる)

セルフケア:頭痛体操(1日2分)

緊張型頭痛向け:肩回し
  • 前回し10回 → 後ろ回し10回
  • これを3セット程度
  • 「肩凝ったな」のタイミングで回す(“早めに”)
片頭痛向け:腕振り
  • 頭(頸)を動かさないようにして、腕の力を抜く
  • 体の軸を意識しながら、腕を横に振る
  • 埼玉国際頭痛センター長・堺先生監修の頭痛体操として紹介

食事の話:誘発食品/良いとされる栄養

片頭痛を誘発する代表的食品
  • 赤ワイン(ヒスタミン、チラミン)
  • チョコレート(チラミン)
  • チーズ(チラミン)

他にも、柑橘類(オクトパミン)、加工肉(亜硝酸ナトリウム)、旨味調味料(グルタミン酸)で誘発される人がいる、という説明がありました。

片頭痛に良いとされる食品(講義より)
  • マグネシウム:緑黄色野菜(ほうれん草など)、海藻(ひじき)、大豆製品(納豆)、ナッツ(アーモンド)
  • ビタミンB2:うなぎ、レバー

薬の話:市販薬/処方薬/注意点

講義で触れられた治療薬(要約)
  • 片頭痛:アセトアミノフェン(カロナール)、NSAIDs(バファリン、ロキソニン)、トリプタン系(片頭痛の特効薬として紹介)
  • 緊張型頭痛:アセトアミノフェン、NSAIDs、筋弛緩薬、抗不安薬、三環系抗うつ薬など

片頭痛薬(トリプタン系)は「ひどくなってからだと効きにくいので早めに」という趣旨の説明がありました。

鎮痛薬の使いすぎに注意(薬物乱用頭痛)
  • 鎮痛薬を続けると、効果が減弱し、使用量・回数が増えやすい。
  • 講義では「1か月に10日以上の服用が3か月以上続くと危険」と説明。
  • 漢方的には血流が悪くなり「瘀血」状態になり、頭痛回数が増える、という見立ても紹介。

漢方医学的分類:気・血・水(病態)と代表処方

基本の考え方

「気血水の巡りが悪いと頭痛が発生する」。気・血・水の異常を整えることで、頭痛が起きにくくなる(経験的に実証されている)という説明でした。

病態 特徴 代表処方
気の異常
気逆タイプ
発作的に頭痛。ストレスで気が上に上がり、発作が出る。片頭痛に多い傾向。 呉茱萸湯(ごしゅゆとう)
気の異常
気鬱タイプ
持続的に頭痛。ストレスで気が停滞し流れが悪い。緊張型頭痛に多い傾向。 釣藤散(ちょうとうさん)
血の異常
瘀血タイプ
月経前後・月経中に関連しやすい。肩こりがあると血の巡りが悪くなりやすい。 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
水の異常
水滞(すいたい)タイプ
雨の前日・低気圧など気候変化で誘発されやすい(天気痛)。 五苓散(ごれいさん)
セルフ購入の話

講義では、頭痛に関しては「呉茱萸湯・桂枝茯苓丸・五苓散」は一般の方が試すこともあり得る、
ただし緊張型頭痛は処方が多様で「相談してほしい」という趣旨が述べられました。
腰痛は「継続治療が必要で、自己判断は難しいので相談が望ましい」という説明でした。

体験談(匿名要約)からの学び

講義内の体験談に共通していた観点
  • 低気圧・月経前後・肩こり・ストレスなど、誘因が重なりやすい。
  • 痛み止めだけでなく、荷物の工夫・ストレッチ・体操などの「工夫」で負担を減らす。
  • 漢方が合うと頻度が減ることがある(体験談として紹介)。

後半:腰痛

現状
腰痛は原因が多様。非特異的腰痛が70%以上という説明。
方針
重篤疾患や内臓由来などを除外しつつ、最小限の安静+温め+運動へ。
漢方的視点
冷え/筋過緊張/血流障害/加齢(腎虚)/ストレスの5項目を点検。

腰痛の原因の全体像

頻度の目安(講義で紹介された内容)
  • 非特異的腰痛:70%以上(レントゲンやMRIで異常が見えないが痛い)
  • 検査で異常がある場合:椎間板変性(約10%)、椎間板ヘルニア、圧迫骨折(約4%)、脊柱管狭窄症(約3%)、脊椎すべり症(約2%)など
  • 重篤疾患:悪性腫瘍(0.7%)、炎症性疾患(0.3%)など、稀だが除外が重要
  • 内臓由来:前立腺、子宮、尿管結石、大動脈瘤、膵炎などが原因となることもある(講義では約2%の言及)

非特異的腰痛:基本ケア

まず行うこと
  • 最小限の安静(ずっと安静はよくない)
  • 温める(温熱療法)
  • 整体が効果的な場合も
  • 運動療法(歩くのが一番良い、という趣旨の説明)
  • 鍼・マッサージ
運動療法の例
  • 通常の活動性の維持(歩行、階段など)
  • ストレッチ、筋力増強訓練、フィットネス、腰部安定化運動
  • マッケンジー法(YouTube等で検索すると出る、体を反らす運動として紹介)

漢方的にみる:腰痛の「5つのチェック」

チェック 見方 代表処方・生薬
① 冷え 風呂で温めると軽減/クーラーで増悪/下半身が冷える等。
「冷えが原因の痛み止めは効きにくい」「痛み止めは熱を冷ます薬」という説明。
附子(ぶし)/桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)
② 筋過緊張 筋肉が固い→椎間板へ負荷→ぎっくり腰など→反射性筋攣縮で悪循環、という流れ。 芍薬(しゃくやく)/芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
③ 血流障害 動脈側の血流障害=血虚(酸素・栄養不足)/静脈側=瘀血(老廃物蓄積)。
慢性腰痛では血流障害が“必ずある”という趣旨の説明。
疎経活血湯(そけいかっけつとう)
④ 加齢変化 サルコペニア、フレイル、骨粗しょう症、椎間板変性などが重なる。
漢方的病態は「腎虚」。
八味地黄丸(はちみじおうがん)
⑤ ストレス 心理社会的ストレス→闘争逃走反応→交感神経・筋緊張・覚醒が亢進し腰痛悪化。
慢性化でドーパミン低下→疼痛抑制が落ちる、という説明。
柴胡(さいこ)を含む方剤/抑肝散(よくかんさん)
芍薬甘草湯:長期連用の注意(講義より)

急性腰痛には良いが、長期連用(毎日3回など)では血圧上昇、むくみ、カリウム低下等の副作用リスクに言及。
慢性期は「芍薬が入っていて、より穏やかに効く処方へ切り替える」趣旨の説明がありました。

ストレスと腰痛:闘争逃走反応

講義の要点(まとめ)
  • ストレスがあると「戦う/逃げる」モードになり、交感神経・筋緊張・覚醒が亢進。
  • この状態が腰痛を悪化させ、悪循環を作る。
  • 慢性化するとドーパミンが減り、疼痛抑制が弱まる。
  • 慢性腰痛症の患者は、うつ病を3〜4倍発症しやすいデータがある、との言及。

まとめ:他力(治療)+自力(養生)

講義でのまとめ(非特異的腰痛のケア)
区分 内容
他力(治療) 漢方/鍼灸/整体/マッサージ 等
自力(養生) 温める/リラクゼーション/運動
心のケア 心身一如の漢方(柴胡剤など)+必要に応じ心理療法

先生のおすすめとして「楽しいと感じることをする」「体を動かしながら楽しめること」が強調されました。
例:お風呂を楽しむ、ヨガを楽しむ、など。

体験談(匿名要約)からの学び

講義内の体験談に見られた要素
  • 重い物を持つ仕事、月経時に悪化、痛み止めでしのいでいたが、改善の試み(ピルや漢方)へ。
  • ヨガ、整体、運動、養生の“複合”で上向く例。
  • 事故・圧迫骨折・悪性リンパ腫後など、背景が複雑な例もあり、相談の必要性が示唆。
  • 冷え(クーラー)をきっかけに腰痛が出たが、温め・体操・安静で改善した例。
  • 腎虚として八味地黄丸+腰痛体操で頻回のぎっくり腰が落ち着いたという長めの体験談。
  • ストレス(家族の死)を契機に腰痛が悪化した可能性に言及した体験談。

質問タイム(要旨)

Q腰痛がきっかけで「がん」が見つかることは?分かりやすい症状は?腰痛

講義では、がんの場合「症状が出てからでは進行していることが多く、見つけるのは難しい」旨の説明。
前立腺がんは進行に時間がかかること、検診で見つけるしかないという趣旨の話がありました。
また、ご家族が「もっと早く…」と後悔しやすい点に触れつつ、人生の受け止め方についても言及がありました。

Q腰痛のときは動かさない方がいい?腰痛

講義では「痛みが強いときは、痛くない範囲で動く」「急性(ぎっくり腰など)は安静も必要」「慢性は安静を勧めない」趣旨。
方向によって痛い/痛くないがあるので、痛くない方向で工夫して動かす、という説明でした。

Q脊柱管狭窄症など“器質的病変”の腰痛に、漢方は?腰痛

講義では、非特異的腰痛に絞って話したが、実際の外来では脊柱管狭窄症等が多いとのこと。
それらも同じ枠組み(冷え/筋緊張/血流/加齢/ストレス)で評価し、改善はするが時間がかかる場合がある、という趣旨でした。
痛みが強い場合は煎じ薬を勧めることがある、という言及もありました。

Q保険で漢方は2剤まで。どう工夫する?制度

講義では「制度上、常用で3剤は不可」「日をずらしてもレセプトでチェックされる」趣旨。
工夫としては「優先順位を決めて2剤に絞る」「良くなった方をいったん止めて、悪い方へ切り替える」。
さらに「漢方はたくさん同時に飲むと効き目が悪くなることがあるので、2剤程度が結果として良い」という見解が述べられました。

Q漢方薬は薬局の登録販売者に相談してよい?/相談先の見つけ方は?漢方

講義では、相談先として「登録販売者・薬剤師・医師」を挙げつつ、漢方の習熟度は個人差があるという趣旨。
説明を聞いて「納得できるか」「講義内容と整合するか」を目安に、近くの相談先(薬局/医療機関)を探すと良い、
というアドバイスがありました(地域はネット検索で探す、という流れ)。

Q健診の絶食(24時間以上)で頭痛が強く出た。これは何の頭痛?頭痛

講義では「絶食で頭痛は起こり得る」「血糖値・脱水など体内バランスの崩れの可能性」などの説明があり、
ただ一般論として多く聞く話ではないので、再現性があるか(同様の状況でまた起きるか)を見ていく、
という趣旨でした。

お知らせ

次回(第6回)
  • 第5期は次回で最終回:3月28日 第6回「更年期、老化」
  • 懇親会あり(参加希望はチェック)
第6期(4月〜)
  • 4月25日から開始(基本は第4土曜日)
  • LINEオープンチャットで案内(入っていない/LINEを使わない方は学習センター窓口へ)
  • 事前学習動画の案内にも言及あり
4月9日:ショウゲンさん「癒しのお話し会」
  • メインゲスト:ショウゲンさん/サブゲスト:喜多先生
  • YouTubeで話を聞いて感銘を受けたこと、本「今日誰のために生きる」にも触れつつ、“語り部”としての力、縄文時代の話、日本人の生き方の話などが紹介されました。
  • 「直接話を聞くインパクトは大きい」ため、おすすめという趣旨でした。

この講義録について (配布情報)

  • 作成:受講生共有用(講義文字起こしをもとに編集)
  • 講座:漢方未病養生塾 第5期 第5回健康講座(26.02.28)
  • テーマ:頭痛/腰痛
  • 講師:喜多 敏明 先生

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