日時:2026年3月28日
講師:喜多 敏明(辻仲病院柏の葉 漢方未病治療センター長)
テーマ:更年期障害と老化
冒頭のことば — ガンジーの名言
「明日死ぬかのように生き、永遠に生きるかのように学びなさい」
- 人間だけが「自分はいつか死ぬ」と自覚しながら生きる
- だからこそ、一日一日を大切に、しかし学びは永遠の視座で
- 限られた命の中で「本当に大切なことに時間を使っているか」を常に問う
前半:更年期障害
受講生の体験シェア(事前アンケートより)
- ホットフラッシュ中心。「自分よりひどい人もいる、いつか峠は越える」と気にしすぎないようにした
- 体の節々の痛み・激しい頭痛・肩・首・背中の張り
- ストレスまみれの40〜50代、更年期と思わず過ごしていた。「働いている人は更年期にならない」と思っていた
- 子宮筋腫が見つかり手術。冷えがあったが「寒がりなだけ」と思っていた
→ ホットフラッシュだけでなく、関節痛・精神症状・冷えなど、症状は人それぞれ
更年期の特徴
- 原因:卵巣機能の急激な低下
- 加齢に伴う身体的変化が重なる時期
- 精神・心理的負荷が増大する時期(漢方的には「腎虚」が進行する時期)
- 社会的環境因子も変化する
統計データ
- 更年期女性の 60〜70% が多種多様な症状に悩まされている
- 20〜30% が日常生活に支障をきたす(→ 更年期障害)
- 残りの約 40% は症状はあるが日常生活への支障なし(→ 未病)
- 健康な人は全体の30〜40%程度
エストロゲン欠落の影響(3つ)
| # | 分類 | 主な症状 |
|---|---|---|
| ① | 自律神経失調 | ホットフラッシュ、発汗、冷え、動悸、息苦しさ、疲労感、頭痛、肩こり、めまい |
| ② | 精神症状 | イライラ、怒りっぽさ、不眠、抑うつ、涙もろさ、食欲低下 |
| ③ | エストロゲン標的臓器の機能変化 | 泌尿生殖器の萎縮、骨量減少、脂質異常症、動脈硬化の進行 |
※
エストロゲンは骨・血管・脂質代謝・泌尿生殖器の健康維持に広く関与。更年期前は女性の方が男性より脂質異常症が少ない理由もここにある。
更年期障害への対応(産婦人科診療ガイドライン)
- 傾聴 — 受容と共感をもってよく話を聞く
- 生活習慣改善の指導
- 心理療法 — カウンセリング・認知行動療法
- ホルモン補充療法(HRT) — 特にホットフラッシュに有効。ただし血栓症・乳がんリスクあり
- 漢方療法 — 多彩な症状を訴える場合に特に有効(未病段階から適用可)
更年期の三大婦人薬(漢方)
| ツムラ番号 | 処方名 | 漢方的病態 | 適応する症状 |
|---|---|---|---|
| 25番 | 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) | 瘀血・気逆 | ホットフラッシュ・のぼせ・月経異常・下半身冷え・頭痛・肩こり。第一選択薬 |
| 24番 | 加味逍遙散(かみしょうようさん) | 気鬱 | イライラ・不眠・肩こり・疲労感。気鬱によるホットフラッシュにも |
| 23番 | 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) | 血虚・水滞・瘀血 | 冷え性・めまい・肩こり |
覚え方:23・24・25番(三大婦人薬)
- 三分の二の患者はこの3処方で改善する
- それでも改善しない三分の一の難治例は、専門の漢方外来への相談を
後半:老化とアンチエイジング
老化の個人差と活性酸素
双子の研究:同じ遺伝子を持つ双子でも、喫煙の有無で皮膚の老化に大きな差が生じる。
活性酸素を増やす主な原因
- 紫外線・電磁波・大気汚染
- 農薬・食品添加物・油分の多い食事・加工食品
- タバコ・過度な飲酒・化学物質(薬)
- ストレス・睡眠不足
- 激しい運動(ただし適度な運動は活性酸素除去能力を高める)
活性酸素がもたらす害
- 血管内皮細胞のダメージ → LDLコレステロールと結合 → 動脈硬化
- 全身細胞のダメージ → 老化・がんリスク上昇
ポイント:コレステロールが高くても、活性酸素がなければ動脈硬化は起きない。個人差の理由はここにある。
デザイナーフーズ(米国立がん研究所)
植物は光合成の際に大量の活性酸素が発生するため、それを除去する抗酸化物質を豊富に含む。特に緑黄色野菜の抗酸化力が強い。
重要度の高い食品(ピラミッド上位):
ニンニク・生姜・キャベツ・セロリ・甘草・にんじん・大豆・パースニップ
第2グループ:
玉ねぎ・お茶・玄米・全粒小麦・オレンジ・ターメリック・レモン など
→ 野菜・果物を中心とした食事で、老化予防・がん予防・動脈硬化予防につながる
アンチエイジング6つの対策
| # | 対策 | ポイント |
|---|---|---|
| ① | 食事 | 腹八分目(カロリー制限)+デザイナーフーズ中心の食事 |
| ② | 運動 | 毎日15分以上の適度な運動。インターバル速歩(3分早歩き→3分普通歩きの繰り返し)がおすすめ |
| ③ | 睡眠 | 最低7時間、できれば8時間。就寝後最初の深い眠りの2時間(ゴールデンタイム)に成長ホルモンが大量分泌され、細胞が修復・若返る |
| ④ | 禁煙・節酒 | タバコは百害あって一利なし。お酒は人生を楽しむ範囲で |
| ⑤ | ストレス解消 | 自然の中での散歩、楽しいことをする。やけ酒は最悪の解消法 |
| ⑥ | 漢方薬 | 症状がある場合の補助として(まず①〜⑤が基本) |
腎虚と老化・漢方的アンチエイジング
腎の働き(漢方):成長・発育・生殖・若返りを司る。腎臓は「体内の浄水器」として清らかな水を全身の細胞に届け、細胞の若返りを助けている。
腎虚の主な症状
- 活力の減退
- 足腰の力の衰え
- 物忘れ
- 耳が聞こえにくい
- 目がかすむ
- 白髪が増える
- 口が乾きやすい
- 夜中にトイレに起きる
→ 年齢を重ねれば誰でも程度の差はあれ腎虚になる。いかに遅く・軽く済ませるかが養生の目標。
腎虚治療の代表的な漢方薬(補腎薬)
| 処方名 | 特徴・適応 |
|---|---|
| 六味丸(ろくみがん) | 6生薬が基本。冷えのないタイプ・小児の腎虚に |
| 八味地黄丸(はちみじおうがん) | 六味丸+桂枝・附子。老人の腎虚・冷えのある腎虚。「若返りの薬」。泌尿器症状(夜間頻尿・尿漏れ)にも |
| 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん) | 八味地黄丸+牛膝・車前子。水滞・血の巡りが悪い腎虚。しびれ・むくみを伴う場合に |
八味地黄丸は「若返りの薬」。泌尿器症状だけでなく、老化全般に効果的。
人生を考える名言集
瀬戸内寂聴
「年齢を重ね、体が不自由になることは、生物の自然の法則です。それを嫌がったり、つらいと思ってはいけません。あるがままを受け入れ、今できることを考えましょう。」
曽野綾子
「老いることは何と素晴らしいか。自分で食べ・排泄できるというのはなんと偉大なことか。さらにまだ頭がしっかりしていて、多少哲学的なことも考えられるというのは、もしかすると1億円の宝くじを当てたのにも匹敵する幸運なのかもしれない。」
本田宗一郎(74歳)
「人生は飛行機に似ていて、途中がどんなに良くても、着陸に失敗すればすべてはないに等しい。人間は常にやがてやってくる着陸のことを考え、悔いのない真に人間らしい生き方をすべきだ。」
葛飾北斎(74歳の言葉)
「私は6歳からものの形状を映す癖があり、50歳頃から数々の作品を発表してきた。とはいうものの、70歳以前に描いたものは実に取るに足らぬものばかりである。73歳にしてようやく、禽獣業の骨格や草木の生え具合をいささか悟ることができた。だから80歳でますます腕に磨きをかけ、90歳では奥義を究め、百歳になればまさに神妙の域に達するものと考えている。百数十歳ともなれば、一点一画が生き物のごとくなるであろう。」
→ 北斎は89歳まで生涯現役で描き続けた。学びに年齢はない。
ガンジー(再掲)
「明日死ぬかのように生き、永遠に生きるかのように学びなさい」
自問してみよう:
- 明日死ぬとしたら、今日一日をどのように生きますか?
- 永遠に生きるとしたら、これから何を学びますか?
- そして、どのような花を咲かせますか?
受講生からの声「何歳まで生きたいですか?」
- 「日々の養生を大切にしながら健康寿命として100歳を目指したい。再生医療・AI・老化研究の進化を自分の目で見届けたい」
- 「希望は150歳、現実的には120歳。やりたいこと・やり残したことがたくさんある。もっと成長したい」
- 「こんな生活がしたい、という希望が実現するまでは心も体も健康でいたい。希望が実現したら、いつこの世を去っても大丈夫」
- 「今の健康状態が保てるなら、なるべく生きていたい。自立できなくなったら早めに旅立ちたい。死に方はピンピンコロリを希望」
質疑応答(抜粋)
Q:更年期の始まりと終わりがはっきりしない。自分が更年期なのかどうかわからない
A:もともと体調が悪い方は、更年期による変化に気づきにくいことが多い。ゼロから五の変化は感じやすいが、五から十の変化は感じにくい。45〜55歳が更年期の目安だが、もともと調子が悪い人はその変化に気づかないまま通過することも珍しくない。
Q:漢方薬を2〜3ヶ月飲んで効果がなければ変えた方がいい?
A:一般論では2ヶ月効果がなければ変更を検討。ただし、主治医が目的をもって継続している場合もある。「良くなっていない」「変化がない」と感じたら、ぜひ主治医に確認を。
Q:仕事をしている人は更年期が軽くなるの?
A:両極端。仕事がストレスになって悪化する人も、仕事によって気が紛れて軽くすむ人もいる。仕事がうまくいっていて気が紛れている場合は、軽くすむことが多い。
Q:男性更年期と歯が割れることの関係は?
A:男性更年期は女性と違い、男性ホルモンは徐々に低下するため急激な症状が出にくい。歯が割れる原因は加齢よりも食いしばりによる機械的負荷の方が大きい可能性が高い。マウスピースをしていても食いしばりが強い場合は追いつかないことも。
Q:八味地黄丸について。夜間0回でも尿量が多い(夜間に500〜600ml)
A:これは加齢による抗利尿ホルモン(ADH)の分泌低下が原因。若い頃は夜間にADHが出て尿産生を抑えているが、加齢で出なくなると夜間多尿となる。八味地黄丸が有効。
Q:漢方薬(23番)を40年近く飲み続けてもよいか
A:合っていて調子が良ければ、長期服用して問題ない。漢方薬は副作用が少なく、「飲んでいるから元気でいられる」という信念自体も大切な治療の一部。
お知らせ
ショウゲンさん講演会
4月9日(木)15時〜
ペンキ画家・ショウゲン氏によるご講演。アフリカ・ブンジュ村での体験と縄文の精神について。
漢方未病養生塾 第6期
- 開講:2026年4月〜
- スケジュール:毎月第4土曜日 14時〜
- テーマ(前半4回):「病気はチャンス」
- 第5回:感謝マインド健康法/第6回:がんをチャンスにする生き方
- 参加方法:第6期LINEオープンチャットへ参加(本名・漢字フルネームで登録)
- 知人紹介の場合、第6期LINEオープンチャットに紹介者名を投稿してください
