漢方未病養生塾(第5期) 第1回健康講座 講義録
開催日時:2025年10月25日(土)14:00-16:00
テーマ:疲労・気疲れと快眠
講師:喜多敏明医師(辻仲病院柏の葉 漢方未病治療センター センター長)
1. 講師自己紹介
辻仲病院柏の葉 漢方未病治療センターのセンター長をしております、喜多敏明と申します。
経歴・資格
- 富山医科薬科大学卒業、漢方一筋40年
- 日本東洋医学会 元理事・日本未病学会 理事
- 漢方専門医・指導医
- 著書「病気はチャンス」(一般向け書籍)他、専門書多数
- 一般社団法人 漢方未病教育振興協会 設立
三つの顔
- 漢方専門医:西洋医学でよくならない病気を治す
- 漢方総合医:プライマリケアで未病を治す
- 漢方教育者:治る力を引き出す漢方の考え方を伝える
2. 漢方未病養生塾の目的と概要
目的:生老病死の人生を今よりも明るく生きていくために、漢方と未病と養生について共に学ぶ場を提供する
講座の特徴
- 一方的な講義ではなく、シェアの時間を重視
- 自己開示と傾聴による対話の場
- 仲間と共に学ぶコミュニティ
対象者
現在健康であっても、未病であっても、病気であっても、これからの人生をより健康で幸せに生きていきたいと考えている方
第5期スケジュール
2025年10月〜2026年3月まで毎月1回開催(原則第4土曜日 14:00-16:00)
- 第1回(10/25):疲労・気疲れ、快眠
- 第2回(11/22):快食・快便、肥満
- 第3回(12/27):未病、風邪
- 第4回(1/31):花粉症、冷え性
- 第5回(2/28):頭痛、腰痛
- 第6回(3/28):更年期、老化
3. 【前半】疲労・気疲れについて
事前アンケート調査結果(32名回答)
気虚の症状
疲れやすい、疲れが取れない、やる気が出ない、気力がない、体がだるい、日中の眠気、食後に眠くなる、風邪をひきやすい、風邪が治りにくい、食欲がない、下痢しやすい、目や声に力がない
結果:40%の人が該当症状(疲れやすい)あり
気鬱の症状
イライラしやすい、怒りっぽい、憂鬱になりやすい、抑うつ状態、寝つきが悪い、眠りが浅い、朝起きにくく調子が悪い、緊張しやすい(肩こり、頭痛、腰痛)、喉が詰まる感じ、腹部膨満感、便通異常、げっぷ、おならが多い
結果:寝つきが悪い・眠りが浅い
が40%
、緊張(肩こり・頭痛・腰痛)が40%
疲労のメカニズム
労働(肉体労働・頭脳労働)→ 疲れる → 休養 → 回復 → 能力向上
漢方的な回復のメカニズム
- 気(エネルギー):充電される
- 血(栄養):組織を修復する
- 水:細胞の再生を促す
筋肉痛は筋肉繊維が壊れているため発生します。睡眠中に血(栄養)が筋肉を修復し、水が細胞の再生を促します。
熟睡のための五つの心得
※全ての研究者が同じことを言っている科学的根拠のある方法
- 朝太陽の光を浴びる
- 日中に体を動かす
- 寝る2時間前には夕食を終える
- 寝る1時間前には入浴を終える
- 寝る前の1時間は明るい光を避ける
疲労回復に良い食事の五つのポイント
- 消化の良いものを食べる
- よく噛んで食べる
- ローフード(生の食材)を食べる
- 水やお茶を一緒に飲まない
- 食べる時刻を同じにする
→ 胃腸に負担をかけない
漢方薬による対応
睡眠と食事をしっかりしているのに疲れが取れない場合に使用します。
- 気(エネルギー)を充電
- 虚弱体質や気疲れの人に
- 朝起きたら元気になる
- エネルギーと修復材料を両方補う
- マラソン前後に効果的
- 手術前後の回復にも有効
- 若返りの薬
- 高齢者のフレイル(虚弱)に
- 体の潤いを保つ
- 夏バテ・初夏の疲れに
- 脱水予防
重要なポイント:漢方では「誰にでも一番良い薬」というものはありません。同じ症状でも人によって合う薬が違います。自分に合った漢方薬を見つけることが大事です。
気疲れについて
気疲れとは
精神エネルギーを浪費すること。「気を使う」「気にする」「気になる」「気がかり」「気忙しい」「気が休まらない」などは、すべて気の消耗につながります。
気疲れしやすい3つのタイプ
【タイプ①】周りの人に気を使いすぎるタイプ
- 他人の目が気になる
- 相手からどう思われているか気になる
対策
- 相手の反応の原因を自分だけに帰属しない
- 相手の機嫌が悪いのは自分のせいとは限らない
- 相手の事情や状況も考える
- みんなから好かれようとしない
- 苦手な人とは心理的な距離をとる
- 自然体でいられる人間関係を大切にする
【タイプ②】未完了なことがたくさんあるタイプ
- やろうと思ってやっていないこと
- やり始めたが途中になっていること
- 脳は未完了なことを常に記憶し再生している
- 無意識でエネルギーを消耗している
対策
- すぐに完了させる
- いつ完了させるかを決める
- 完璧は目指さない、誰かの力を借りる
- やらないと決める(断捨離)
- 中途半端な気持ちで始めない
【タイプ③】余計なことを心配しすぎるタイプ
- 将来の不安(健康、お金)
- 仕事、家庭、予測不可能なこと
対策:関心の輪と影響の輪
- 関心の輪:関心はあるが影響を及ぼせない領域(大きい)
- 影響の輪:自分が影響を及ぼせる領域(小さい)
影響の輪の内側 = 自分で何とかできること
→ 人事を尽くす(一生懸命やる)→ あとは天命を待つ
影響の輪の外側 = 自分ではどうしようもないこと
→ 今考えてもしょうがない
影響の輪は成長によって広げることができる
→ 学ぶことで成長し、できることが増える
思考選択の自由
考えは人生を作るための道具に過ぎない
- どんな道具を使うかは自由に決められる
- 考えが浮かんできても、それを使うか使わないかは自分次第
- 思考が生まれてくるのはコントロールできないが、選択することはできる
今月の課題:思考の主人になる
- 思考の奴隷ではなく、思考の主人になる
- 役に立たない道具ではなく、役に立つ道具を選択する訓練をする
- 座禅、瞑想、マインドフルネスは思考を選択する訓練
4. 【後半】快眠について
血虚と睡眠障害
血虚の症状
- 足がつりやすい(コムラ返り)
- 皮膚が乾燥してかさつく
- 爪が薄くて割れやすい
- 髪の毛が抜けやすい
- 目が疲れやすい
- 不眠・睡眠障害 ← 注目
- 手足が痺れる
- 月経の量が少ない・無月経
アンケート結果:約22%が不眠の症状あり
気鬱の症状と睡眠
- 寝つきが悪い、眠りが浅い:40%
- 緊張しやすい(肩こり、頭痛、腰痛):40%
→ 熟睡できていない状態
睡眠の役割
- 体や脳の休養
- 記憶の整理・定着
- 体の発育・修復
- ホルモンバランスの調整
- 脳の老廃物除去
- 免疫力を高める
現代人の睡眠不足
ビジネスマン(2000年調査):
- 平日睡眠時間:6時間
- 休日睡眠時間:8時間(2時間多く寝ている)
→ 平日の睡眠が足りていない証拠
体内時計(サーカディアンリズム)
メラトニンのメカニズム
- 朝、太陽の光を浴びる
- 起床から14時間後にメラトニンが分泌され始める
- メラトニンが増えると眠くなる
- 寝る前に強い光を浴びるとメラトニンが減る
→ スマホ、タブレット、テレビの光は睡眠の敵!
熟睡のための条件
- 交感神経の活動を抑える
- 深部体温を下げる
- 骨格筋を弛緩させる
具体的な方法
- 就寝前4時間はカフェイン摂取を控える
- 入浴は就寝2時間前までに(深部体温が下がるのを待つ)
- 軽い読書、音楽、香りでリラックス
- 筋弛緩トレーニング(緊張→弛緩)
規則正しい生活の重要性
最も重要なこと
- 毎日同じ時刻に起きる
- 毎日同じ時刻に寝る
- 食事の時間も一定にする(朝・昼・夕)
- 運動する時間も一定にする(できれば)
→ 体内時計のリズムを整えることが睡眠の質を高める
5. まとめ
養生の基本
- 漢方薬は、睡眠と食事をしっかりしているのに疲れが取れない時に使う
- 健康づくりは自分でできる(養生)
- ここで学んだことを生かして養生を実践する
- 本当に困った時は漢方治療を相談する
講座の特徴
- シェアの時間を重視(グループディスカッション)
- 自己開示と傾聴
- 共に学ぶ場
質疑応答より
Q: 漢方薬(41番、48番、108番)は自分で判断して薬局で購入してよいか?
A: 漢方の専門知識がない場合は、薬局の薬剤師に相談して選んでもらうのが最善です。
受講生へのメッセージ
半年間の講座を通じて、健康情報が正しいかどうか、自分に合うかどうかを判断できる力を身につけることができます。簡単なことをしっかりとやっていくことが健康法の一番大切なポイントです。
