決められないのは、あなたが弱いからじゃない~心と体を守る整理のしかた~

はじめに

この記事を読んでいるあなたにお尋ねします。「なかなか決められずに悩んでいることはありませんか?」

転職するか、このまま続けるか。
家族のことを優先するか、自分のことを優先するか。
受診した方がいい気もするけれど、忙しいし…と後回しにしていること。

「決められない」は、性格の問題だと思われがちです。けれど臨床の現場では、むしろ逆をよく見ます。真面目で、責任感が強く、周りを大切にしてきた人ほど、“決める”という行為が重くなって動けなくなる。――そんなことが、確かにあります。

そして厄介なのは、決められない状態が続くことが、健康そのものを少しずつ削っていく点です。だからこそ「健康づくり」の話として、一度ていねいに整理してみたいのです。

今回は、「決められない状況」から抜け出すための5つの整理を、ひとつの物語と、今日からできるセルフケアに落としてお届けします。

主な内容
・まず結論:決められないのは「あなたが弱い」からではない
・「決められない」が健康に与える影響
・<仮想事例>38歳・奈緒さんの「決められない」
・1)価値:何を守りたいのかを先に決める
・2)情報:集めるのではなく、減らす
・3)実行:結論を急がず、「仮決め」で前に進む
・4)不安:ゼロにするのではなく、手すりを付ける
・5)関係:許可待ちをやめ、協力を取り付ける
・そして奈緒さんは「決められない状況」から脱出した
・今日からできるセルフケア:5つの問い(紙に書くのがコツ)

まず結論:決められないのは「あなたが弱い」からではない

決められないとき、私たちは「もっと情報が必要だ」と考えがちです。けれど実際には、情報を増やすほど迷いが深くなることも少なくありません。意思決定には“順番”があるからです。

この記事では、次の順番で整理します。

  1. 価値(中心核)
  2. 情報(認知)
  3. 実行(行動)
  4. 不安(感情)
  5. 関係(対人)

この順番でほどくと、「決められない」は“精神論”ではなく、現実的な問題として扱えるようになります。

「決められない」が健康に与える影響

決められない状態が続くと、頭の中に「未完了の案件」が積み上がります。
すると脳は、寝ている間も含めて“結論の出ない会議”を回し続けます。
結果として、眠りが浅くなったり、食欲や胃腸の調子が落ちたり、肩こり・頭痛・動悸・疲労感として表に出やすくなる。

つまり「決められない」は、気持ちの問題だけでなく、心身のエネルギーの浪費にもつながり得るのです。
ここを放置すると、気づかないうちに“未病”の段階から崩れやすくなります。

<仮想事例>38歳・奈緒さんの「決められない」

※ここからは仮想事例です。

奈緒さん(38歳)は会社員。夫と小学生の子どもが1人。母(68歳)は独居で、最近もの忘れが増え、受診を勧めても嫌がります。

奈緒さんの悩みはこうでした。

  • 転職したい。でも、今の部署は人手不足で、自分が抜けたら回らない気がする
  • 母の受診や介護の段取りも必要。でも仕事が忙しく、考えるだけで疲れる
  • 夫は「家計のために今の会社に残ってほしい」と言う
  • 半年以上、不眠・胃痛・動悸が続き、夜になるとスマホで情報を探し続けてしまう

奈緒さんは言いました。
「何が正しいのか分からなくて…決められないんです。私が優柔不断だからでしょうか」

いいえ。これは“優柔不断”ではなく、5つの要素が絡まって起きている状態です。ここから順番にほどいていきます。

1)価値:何を守りたいのかを先に決める

奈緒さんは「転職が正しいかどうか」を考え続けていました。でも、ここでいきなり“正解探し”をすると、迷いは深くなります。

まず立てるべき問いは、こちらです。

  • この一年で、いちばん守りたいものは何?
  • 避けたいのは、何の損失?
  • 5年後の自分が、今日の自分に望む選択は?

奈緒さんはしばらく黙ってから、こう言いました。
「子どもに、いつもイライラしている母親の記憶を残したくありません。
それと、母のことを“面倒”って思う自分にもなりたくない。……私は、人を大事にしたいんです」

ここで、奈緒さんの価値(中心核)が言葉になりました。
「人を大事にしたい」――家族も、母も、職場も、そして自分も。

価値が定まると、「転職するかどうか」は、こう翻訳できます。
「どちらが正しいか」ではなく、「どちらの痛みなら引き受けられるか」へ。

2)情報:集めるのではなく、減らす

奈緒さんは、転職サイト、口コミ、介護制度、病院情報…あらゆる情報を夜に検索していました。しかし情報は、増えるほど安心するとは限りません。

ここで行ったのは、情報の“増量”ではなく“整流”です。
価値「人を大事にしたい」に沿って、判断軸を3つに固定しました。

  • 健康(睡眠・胃痛・動悸が改善する見込みがあるか)
  • 時間(家族と母の支援に回せる時間が確保できるか)
  • 誠実(職場の引き継ぎを現実的に設計できるか)

これ以外(極端な口コミ、年収の微差、完璧な会社探し)は、いったん保留。
奈緒さんは言いました。
「全部を比べなくていいんですね…」

そうです。地図は大きすぎると読めません。

3)実行:結論を急がず、「仮決め」で前に進む

価値が見え、情報が整理されても、まだ動けないことがあります。そのとき必要なのは、“決断”ではなく“工程”です。

奈緒さんは次のように、3週間の「実験」に変えました。

  • 母のこと:地域包括支援センターに連絡し、受診同行日を1日だけ確保
  • 仕事のこと:上司に「体調面で限界がある。3週間で業務棚卸しをしたい」とだけ伝える(退職はまだ言わない)
  • 転職のこと:応募ではなく、面談(情報収集)を2社だけ
  • 自分のこと:夜の検索をやめ、気になることはメモして翌朝処理

ポイントは、こうです。
「転職するかどうか」ではなく、
『転職の可否を判断できる状態を3週間で作る』に変えたこと。

“決める”を一発勝負にしない。ここで、奈緒さんの体調も少しずつ落ち着き始めました。

4)不安:ゼロにするのではなく、手すりを付ける

それでも夜になると、不安は顔を出します。
「もし転職できなかったら?」
「母が急に悪くなったら?」
「職場で恨まれたら?」

不安を無理に消そうとすると、逆に強くなります。不安は“敵”というより、“番人”です。番人は「備え」が見えると道をあける。

そこで奈緒さんは、最悪の想定に“手すり”を付けました。

  • 転職が決まらないときの退路(休職・勤務調整など)を確認
  • 母の急変時の連絡先と役割分担を紙に書く
  • 引継ぎ資料を作り、「誠実に去る」道筋を残す

そして、不安を数値化します。
「不安は0〜10でいくつ?」
「8です」
「いくつなら次の一手が打てる?」
「…6なら」

不安は0にしなくてもいい。動けるレベルまで下げればいい
未病・養生の考え方とも相性がよいところです。大きく崩れる前に、揺らぎの段階で立て直すからです。

5)関係:許可待ちをやめ、協力を取り付ける

最後に残るのが、対人関係の“絡み”です。奈緒さんの場合は、夫と職場でした。

ここで大事なのは、相手を論破することではありません。「当事者」と「協力者」を分け、境界線を引くことです。

奈緒さんは夫に、こう伝える練習をしました。

「説得したいんじゃない。私は壊れかけている。
3週間だけ実験させてほしい。結果は必ず共有する。
一緒に現実を運営したい」

職場にはこう。
「体調面でパフォーマンスが落ちています。
まず3週間で業務棚卸しと引継ぎの準備をします。
その上で働き方を再設計させてください」

“許可をもらう”から“協力を取り付ける”へ。
関係の整理がついたとき、決断は孤独な戦いではなくなります。

そして奈緒さんは「決められない状況」から脱出した

3週間後、奈緒さんはこう言いました。
「転職するかどうかを、ずっと一気に決めようとしていました。
でも、価値を言葉にして、情報を減らして、手順を作って、不安に手すりを付けて、関係の線引きをしたら…
決めるって、怖いけど“できること”なんですね」

最終的に奈緒さんは、いきなり退職ではなく、部署異動や勤務調整を相談しつつ、半年スパンで転職準備を進める――という現実的な道を選びました。

大切なのは、結論の派手さではありません。
“価値に沿った工程”の上に立てたこと。これが、「決められない状況」からの脱出です。

今日からできるセルフケア:5つの問い(紙に書くのがコツ)

最後に、あなた自身に使える形でまとめます。スマホではなく、紙に書いてください(頭の中の“会議”が静まりやすくなります)。

  1. 価値:いま守りたいものは何?(一語で)
  2. 情報:判断軸を3つに絞るなら何?
  3. 実行:今日できる“最初の一手”は?(10分でできるサイズに)
  4. 不安:不安は0〜10でいくつ?いくつなら動ける?
  5. 関係:これは誰の課題?協力者は誰?何を頼む?

おわりに:やさしい注意書き

ここまで読んで、「やってみよう」と思えたなら、それだけで一歩です。
ただ、もしあなたが今、次のような状態に当てはまるなら――それは根性不足ではなく、体からの“赤信号”かもしれません。セルフケアで抱え込まず、早めに医療機関や専門家に相談してください。

  • 眠れない日が続き、日中の生活に支障が出ている
  • 食欲低下や体重減少がある/胃痛・吐き気が続く
  • 動悸、息苦しさ、胸の痛み、めまいなどがある
  • 強い不安で外出や仕事が難しい
  • 「消えてしまいたい」など希死念慮がよぎる
  • アルコールや薬で無理やり眠らないと保てない

“決められない”は、時に心身の消耗の結果として起きます。整えるべきは、まず土台(睡眠・休息・安全)です。土台が戻れば、決断は必ず軽くなります。

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Dr.喜多

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