漢方未病養生塾 第5期 第2回健康講座講義録

開催日:2025年11月22日
講師:喜多 敏明 先生
一般社団法人漢方未病教育振興協会 理事長

学びについて - 荀子の教え

「夫れ学は通の為に非ざるなり。窮して困しまず。憂えて心衰えざるが為なり。禍福終始を知って惑わざるが為なり。」

― 荀子

本当の学問とは、立身出世や就職のためにあるのではありません。困窮しても苦しみ迷わず、将来を憂えて心まで衰えてしまうことがないため、そして災いも幸福も永遠に続くことはなく、いずれ終わることを理解し、少しも迷うことがないためにあるのです。

積極的な学びの姿勢

  • 受け身ではなく能動的に: 聞いているだけではなく、考えたこと、感じたこと、気づいたことをメモする
  • シェアの重要性: グループでのシェアを通じて理解を深める
  • 勇気を持って: 最初は恥ずかしくても、勇気を出してシェアすることで学びが深まる

快食 - おいしく食べられることの大切さ

快食を支える体の働き

おいしく食べられることは健康のバロメーターです。快食を実現するには、以下の働きが重要です。

口の健康

歯、舌、味覚、嗅覚がしっかり機能し、咀嚼と唾液による消化がスムーズに行われること

消化管の働き

口→食道→胃→小腸(6〜7メートル)での消化・吸収が適切に機能すること

脳の働き

視床下部の空腹中枢と満腹中枢が正常に機能すること

快食のための養生ポイント

  • よく見て楽しむ: 視覚の情報が脳に届き、空腹を刺激する
  • よく噛んでよく味わう: 唾液がしっかり出て、胃も準備を整える
  • ゆっくり食べる: 消化液の分泌を促進する
  • 消化の良いものを食べる: 肉などは特によく噛む
  • お腹を冷やさない: 消化酵素は37℃でよく働く。冷たいものは控えめに
  • 空腹を感じてから食べる: 時間で義務的に食べるのではなく
  • 腹八分目: 次の食事時にお腹が空くように
  • 感情の解消: 怒りや悲しみを上手に発散する

実践提案:箸置きを使おう

「箸置きダイエット」の方法:

  1. 一口食べたら箸を箸置きに置く
  2. 口の中の食べ物がなくなってから次の一口へ
  3. しっかり噛むことで満腹感を得やすくなる

日本の文化として箸置きを見直し、よく噛む習慣を取り入れましょう!

よく噛むことの8つのメリット

  • 美味しく味わえる
  • 消化・分解・吸収が促進される
  • 栄養が細胞に届いて生き生き元気になる
  • 満腹感で食べ過ぎ防止
  • 肥満改善や病気予防
  • 脳を刺激して活性化
  • 唾液がよく出て口臭予防
  • セロトニンが増えて幸せ感とリラックス

快便 - 良い便がスッキリ出ることの重要性

快便を支える体の働き

良い便がスッキリ出ることも健康のバロメーターです。以下の器官が健康に働くことが必要です。

大腸

水分を吸収して便を形成する

腸内細菌

善玉菌が優勢な状態を保つ

肝臓と脳

腸肝循環と腸脳相関が正常に機能する

腸肝循環と便秘の問題

肝臓で解毒された物質は胆汁と共に腸に排泄され、便と一緒に体外へ出されます。しかし便秘になると、せっかく解毒したものが大腸から再吸収され、体内に毒素が蓄積します。

結果: ニキビ、動脈硬化など様々な病気の原因に

脳と腸の相関関係

セロトニンは脳内ホルモンとして知られていますが、実は腸の中でも重要な働きをしています。腸内には多くの神経があり、脳と腸は密接に関係しています。

  • 腸の働きが脳に影響する
  • 脳の働きが腸に影響する
  • 腸内細菌も脳の影響を受ける

快便のための養生ポイント

  • 朝一杯の水を飲む: 常温の水で腸を刺激する
  • 食物繊維を摂る: 善玉菌を増やす
  • 発酵食品を摂る: 腸内環境を整える
  • 毒を取らない: 農薬や添加物を避ける努力をする
  • 便を我慢しない: 催したらすぐにトイレへ
  • ストレスをためない: 脳と腸の関係を意識する
  • 睡眠不足を解消: 脳の働きを整える
  • 生活リズムを整える: 食事・睡眠・起床時間の規則性

腸は「第二の脳」

腸は自分で考えて活動している賢い器官です。腸の活動を妨げず、助けるような生活を心がけましょう。良い便がスッキリ出るかどうかが、体全体の健康状態のバロメーターになります。

肥満について - 健康的な体重管理

肥満の定義(BMI)

BMI(Body Mass Index)= 体重(kg) ÷ 身長(m)²

  • 標準体重: BMI 22
  • 肥満: BMI 25以上

身長別の標準体重と肥満の目安

  • 150cm: 標準49.5kg / 肥満56.3kg以上
  • 160cm: 標準56.3kg / 肥満64.0kg以上
  • 170cm: 標準63.6kg / 肥満72.3kg以上

肥満の原因

1. 体質的要因(変えられない)

  • 肥満関連遺伝子
  • 胎児期の低栄養(エネルギー節約型の体質になる)

2. ライフスタイル要因(変えられる)

  • 食べ過ぎ
  • 運動不足
  • 腸内細菌の状態

肥満症治療の7つの特徴

肥満症専門医の知見より

  1. 治療脱落率が高い
  2. リバウンド率が高い
  3. 食事運動の単独療法では、減量及びその長期維持は困難
  4. 行動療法の併用が効果的
  5. 3kg程度の減量でも合併症予防・改善効果がある
  6. 減量体重の維持には持続的介入が必要
  7. 減量中にライフスタイルが変容することが重要

食行動質問票による自己分析

肥満者には特有の認知様式と食行動の癖があります。以下の3つの領域を重点的にチェックしましょう。

1. 食動機

  • 料理が余るともったいない
  • 食後でも好きなものなら入る
  • 目の前の食べ物に手が出る
  • イライラすると食べてしまう

→ 目の前の快楽に負けない

2. 食事内容

  • コンビニをよく利用
  • 濃い味が好き
  • 外食や出前が多い
  • 脂っぽいものが好き

→ 健康的な食事の割合を増やす

3. 食生活の規則性

  • 夜食を取る
  • 食事の時間が不規則
  • 夕食が豪華で量も多い
  • 朝食を摂らない

→ 規律ある生活スタイルの確立

ライフスタイル変容の重要性

食生活の規則性は「緊急ではないが重要なこと」です。今日一日やってもやらなくても結果に影響しませんが、長く続くと少しずつ影響します。気がついたときには大変なことになっている可能性があります。

リバウンドしないためには、規律ある生活スタイルの確立が欠かせません。

漢方的デトックス - 体の中の毒を取り去る

漢方医学では、肥満は体の中に毒がたまっている状態と考えます。毒は3種類に分けられます。

腸毒(裏実)

原因: 腸の中に毒が溜まっている

治療: 瀉下剤で大腸から便と一緒に排泄

※便秘している人は必ず毒が溜まっている

血毒(瘀血)

原因: 血の巡りが悪く、肝臓での解毒が不十分

治療: 駆瘀血剤で血液の毒を取り去る

※動脈硬化の原因にもなる

水毒(水滞)

原因: 水が滞り毒が溜まる(むくみなど)

治療: 利水剤で腎臓から尿と一緒に排泄

※水滞を改善し水の巡りを良くする

漢方薬だけでは痩せられない

漢方薬には減量効果がある程度認められていますが、薬だけで痩せるのは困難です。体は元の状態に戻ろうとする特性があるため、ライフスタイルの変容と組み合わせないと効果は持続しません。

漢方薬は体の毒を取り去る補助的な役割。痩せるためには自分でライフスタイルを変える必要があります。

心のデトックス - 三毒の煩悩と無財の七施

心身一如の考え方

漢方では「心と体は一つのごとし」と考えます。体に毒が溜まっているということは心にも毒が溜まっているということ。心の毒が溜まっていれば体の毒もデトックスできません。

三毒の煩悩

仏教で説かれる三大煩悩。これらが心の毒となります。

  • 貪(とん): むさぼりの心
  • 瞋(じん): 怒りの心
  • 癡(ち): 妬みの心

無財の七施 - お金を使わない布施

六波羅蜜(仏教の6つの修行)の一つ「布施」の中でも、お金を使わずにできる7つの布施があります。今回はその中から3つを紹介します。

1. 眼施(げんせ)

温かいまなざしで
人に接する

2. 和顔施(わがんせ)

にこやかな顔で
人に接する

3. 言辞施(ごんじせ)

優しい言葉で
人に接する

なぜこれが「修行」なのか?

好きな人や関係の良い人には誰でもできます。しかし、嫌な相手にもすることが修行です。相手を選ばず、温かいまなざし・にこやかな顔・優しい言葉で接することができれば、それが真の布施となります。

嫌な相手にキツイ眼差し、怒った顔、きつい言葉を投げかければ、必ず自分の心の中に毒が溜まります。

心のデトックスの実践

自分の機嫌に責任を持つ

無財の七施を実践することで、心の中の毒(三毒の煩悩)をデトックスすることができます。これにより、体のデトックスも促進され、健康的な減量と長期的な幸せにつながります。

質疑応答

Q1: 以前は辛いものを食べても大丈夫だったのに、最近は下痢してしまいます。やめるべきでしょうか?

A: 体がその辛さに今までは適応できていましたが、限度を超えてきたサインです。体の声に耳を傾けて、以下を検討してください:

  • 体と相談しながら妥協点を見つける(回数を減らすなど)
  • 本当に体調が悪化するならやめる
  • 時々楽しみのために食べるのも選択肢の一つ

自分の体とコミュニケーションを取りながら決めることが大切です。

Q2: 白湯について漢方ではどのように評価していますか?

A: 一度沸かした水は塩素が飛ぶため、水道水をそのまま飲むよりも良いとされています。昔は病原菌対策として湯冷ましを飲む習慣がありました。

現代では浄水器などで塩素を減らした水を飲むことを気をつけることが重要です。飲み水は毒(塩素など)を減らすことを意識しましょう。

本日のまとめ

健康的な生活への道

  1. 快食快便を目指す: 体が健康に働いていることへの感謝
  2. よく噛む習慣: 箸置きを活用して咀嚼を意識する
  3. 生活リズムを整える: 食事・睡眠・運動の規則性
  4. ライフスタイルの変容: 食行動の癖を認識し改善する
  5. 体のデトックス: 腸毒・血毒・水毒を意識する
  6. 心のデトックス: 無財の七施の実践(温かいまなざし・にこやかな顔・優しい言葉)
  7. 自分の機嫌に責任を持つ: 心身一如の健康法

今日から始められること

「緊急ではないが重要なこと」を一つずつ実践していきましょう。今日一日やってもやらなくても結果に影響しませんが、継続することで人生が変わります。

次回のご案内

第3回健康講座

日時:2025年12月27日(土)

※講座後に懇親会を予定しております

一般社団法人 漢方未病教育振興協会

本講義録は受講生の学習目的でのみご使用ください